企業経営に必要な「物流戦略」の再構築
──新たな物流の姿を考える場合には、物流企業側の努力だけではなく、荷主である企業や消費者も変わる必要があります。
西村 “物流のかたち”というのは、ほとんどは商流が決定します。言い換えると、モノの運び方は売り方によって変わるわけです。これまで、日本独特の商慣習が物流の無駄を生んできたことは否定できません。しかし、限られたリソースを有効活用することが大事である今こそ、不必要な商慣習を見直すことが重要になっていると思います。
例えば、加工食品業界では、賞味期限の表示を「年月日」から「年月」に変える動きが出ています。これだけで製品を必要以上に早く運ぶことがなくなり、例えば鉄道輸送では、余力のある土日の輸送力を使って運ぶことができるようになります。
もっと根本的なことでいえば、荷主企業は「物流」に対する認識を変えていく必要があります。長らく企業活動における物流は「コスト」でしかなく、メーカーの物流部やロジスティクス部の最大のミッションは「物流コストをいかに下げるか」でした。しかし、物流危機の顕在化によってトラック運賃は上昇しており、今後下がることはまず考えられません。ならば、運賃や保管費といった単品コストをいたずらに下げようとするのではなく、サプライチェーン全体で効率化を志向していくべきです。
そのためには、共同物流などをより一層進めていく必要がありますし、物流部門だけでなく、製造部門や販売部門と一体化したサプライチェーン戦略の深化が不可欠です。物流が企業経営のボトルネックにならないためにも、より戦略的な思考が重要になってくると思います。
──今、サプライチェーンの再構築を考えるならば「物流のグローバル化」の進展にも目を向けるべきですね。
西村 情報や金融は国境を軽々と越えていきます。当然、サプライチェーンもそれに同期的に対応していく必要があります。モノをリアルに動かすことの重みはありますが、だからこそグローバル化への対応は、荷主の企業にとっても、物流企業にとっても非常に重要なのです。
今後は、「国内/海外」といった二元論ではなく、国内を含む世界全体を「グローバル」という視点で捉える必要があります。また、エリア単位や輸送モードごとの「部分最適」ではなく、「全体最適」を志向する統合的な考え方が求められるでしょう。物流企業はITやブロックチェーンといった最新技術の活用しながら、全体を俯瞰する戦略思考へ急速にシフトしています。
──パラダイムシフトを経て、日本の「物流」は将来、どんな姿になると想像されますか。
西村 明確な将来像を語るのは難しいですが、まさに今、物流業界のさまざまなカテゴリーのプレーヤーが、未来の「あるべき姿」を見いだすべく、動きだしています。繰り返しになりますが、労働集約産業である物流に「人手不足」という根源的な課題が突き付けられています。まさに困難な状況ですが、制約がイノベーションを育てるというのも一面の真理です。その意味では、今ある“物流のかたち”をどこまで変えていけるか、その革新力に「物流の未来」が懸かっていると考えています。
◆撮影協力/物流博物館 東京都港区高輪4-7-15 http://www.lmuse.or.jp/