ドライバーの人手不足などにより「モノが運べない」という物流問題が急浮上、事態が深刻化している。そこでトラック依存から脱却する手段として、輸送を鉄道に切り替える「モーダルシフト」が推進されている。その機能を担える日本で唯一の企業が日本貨物鉄道(JR貨物)だ。今後どのような戦略でモーダルシフトを支えるのか。大胆な社内改革を断行、その経営手腕にも注目が集まる石田忠正会長に聞いた。(取材・文/『カーゴニュース』編集長 西村旦)
「モノが運べなくなる」構造的課題
いま、国内物流の現場で地殻変動が起きている。
長らく貨物輸送量の9割以上を運んできたトラック輸送がドライバー不足という構造問題に直面。メーカーなどの荷主企業では「モノが運べなくなる」ことへの危機感がにわかに高まっている。製販のサプライチェーンをつなぐ物流機能の不全が経済活動に及ぼす影響は大きく、産業界ではいま、輸送手段をトラックから他の輸送機関に移す「モーダルシフト」の機運が高まっている。
そうした状況下、物流の担い手として再び脚光を浴びているのが鉄道貨物輸送であり、その機能を引き受ける唯一の存在がJR貨物だ。
1968年日本郵船入社、2004年同副社長、07年日本貨物航空社長を経て13年日本貨物鉄道会長就任。
同社は2013年6月、日本郵船(NYK)副社長や日本貨物航空(NCA)社長を務めた石田忠正氏を会長に招聘。同氏主導のもと、民間手法を大胆に採り入れた経営改革に着手した。
石田氏は、海運・航空に続き、陸運の経営にも携わることとなったが、その直前の数年は、大病院の経営再建にも取組み、ここでも黒字化を実現している。
就任以来2年、成果が徐々に表れ始め、関係者からは「JR貨物は変わった」との評価が多く聞こえるようになってきた。石田氏は「改革はまだ道半ば。だが、鉄道貨物の将来はしっかりと見えてきた」と確かな手応えを語る。
モーダルシフトの大きなうねりと経営改革――。その「内と外」の変革の先に見据えるのは「鉄道貨物の復権」だ。
数十年ぶりに高まる鉄道への期待
戦前、戦後を通じて国内物流の5割以上を担ってきた鉄道貨物輸送。それが1960年代に入り、モータリゼーションの進展や国鉄ストの頻発などにより輸送シェアは凋落の一途を辿り、国鉄改革でJR貨物が誕生した以降も1ケタ台に低迷を続けてきた。
それがここにきて、改めて注目を浴びる存在に浮上してきた。その直接的なきっかけとなったのが少子高齢化などを背景としたトラックドライバー不足の深刻化。ドライバー不足は以前からその兆候が指摘されていたが、一昨年の消費増税前の駆け込み需要による貨物量の急増で不安が一気に顕在化した。
石田氏は「この1~2年で明らかに潮目が変わり、貨物鉄道への評価や期待が数十年ぶりに高まっている。日本の物流体系は、もともと諸外国に比べトラックというひとつの輸送モードに偏重し過ぎており、そのことで無理が生じていた。それが労働力不足という構造的な問題に加え、ドライバーの就労規制の強化などにより一気に限界を超えてしまった」と指摘する。
物流は経済の大動脈であり、モノがスムーズに流れないことは経済活動の大きなボトルネックとなる。国としてもこうした問題を重く受け止め、国土交通省では今春、交通政策審議会に物流部会を設け、モーダルシフト推進を含めた国内物流体系の見直しについて、官民あげての本格的検討を開始した。