日本メーカーの技術が生んだ
軽薄短小と設計の高度化・複雑化
「日本の工作機械メーカーがなければスマホ革命もなかった」とさえ言われる。例えば、07年6月に発売されたアップルのiPhoneは、初代機からボディーの四隅の滑らかな曲線デザインが、圧倒的な支持を得た一因でもあったが、その削り出しは日本メーカーの工作機械が担っている。
電子・電気製品で始まった「軽薄短小」の波は、構成部品の軽薄短小を必要とし、精度が高く、加工品質の良い部品を作る工作機械が求められるようになった。この波は現在も変わらず、ますます高精度化と加工品質の高度化が求められている。
工作機械は、あらゆる製品分野と関わりを持つが、近年、大きな需要があるのがスマートフォン部品関連を中心とした電子デバイス・半導体分野と、電気自動車(EV)などの技術開発が進む自動車分野だ。
自動車分野では、樹脂部材の活用が進んでいるが、それに併せて加工の自由度が上がり、工作機械を多用するケースが増えている。例えば、LEDライトを装着した前照灯の基台やカバーは、単なる丸形ではなく非常にメカニカルなデザインのものが増えている。それも精密な金型を削り出せる高精度の工作機械があっての話である。
工作機械の産業競争では、先にも紹介したように中国メーカーが着実に力を付け、より難度の高い加工レベルに対応した機械の開発にも挑み始めている。清水名誉教授は、「今後も日本の工作機械が競争力優位を維持するためには四つのポイントがある。つまり『柔軟化』『省エネ化』『スマート化(知能化)』『見える化(IoT対応化)』だ」と指摘する。
見える化とスマート化による
ソリューション提案がカギ
消費者の商品選択の多様化はさらに進み、それは多品種少量生産での対応を求めるものになる。そのためにはダイナミックなセル生産方式(これまでのように、決まった順番でセルを渡り歩くのではなく、各製品に必要となるセルを必要に応じて選択的に渡り歩いて、製品を完成させる方式)の導入により、より柔軟性を高めるとともに、より高度な自動化が必要となる。かつ、それを高精度、高効率で、環境負荷も少ないモデルで実践しなければならない。
さらには、ものづくりのスマート化と見える化が不可欠になる。両者は個別にある課題ではなく、連動する。
見える化、つまりIoT対応では、あらゆる工作機械をはじめとした設備機器がつながり、その稼働状況や消耗度合いについての情報を収集して遠隔監視する仕組みが、すでに複数のメーカーから提案されている。これは見える化の初期段階で、監視の段階を出ていない。今回のJIMTOFでは、集められた監視データを、AIを活用して分析し、各種判断、対策を講じる、工場のスマート化技術の進展が期待されている。
清水名誉教授は、「欧米のIoTは、管理や監視機能が主で、トップダウンによる効率追求に重点が置かれている。それに対して日本は、現場でいかにIoTを活用して、現場を成長させ、現場からの改善案などを吸い上げていくボトムアップ型の仕組みづくりを行うことが、今後とも、世界に勝ち抜いていくためのポイントになるだろう」と予測する。
設計と開発、製造の各現場が綿密に課題をすり合わせて高度な品質を確保する日本のものづくりは、実は工作機械の開発・製造において最も緻密に展開されてきた。新たなものづくりの時代が始まろうとしている今、日本の工作機械産業が持つものづくりの神髄そのものの革新も始まっている。
(取材・文/船木春仁)