日本マイクロソフトは2月26日、「小売業界における最新DX戦略―デジタルで“つながる”小売業―」と題したセミナーを日立ソリューションズと共催した。DX(デジタルトランスフォーメーション)が企業変革の最優先課題となる中、日米小売業の最新のDX戦略を具体的な事例を交えて紹介した同セミナーの模様を再現する。
DXで新たな成長ステージに入った先進流通業
全米小売業協会(NRF)は今年1月、ニューヨークで年次総会「NRF 2019」を開催した。期間中には注目の企業経営者や各界の識者が登壇する200以上のセッションと最新テクノロジーの展示が行われ、世界99ヵ国から約3万8000人の業界関係者が集まった。
日本マイクロソフトの流通サービス営業統括本部流通業施策担当部長、藤井創一氏は「インテリジェント・リテール(Intelligent Retail)」と題し、NRF 2019を通して見えてきた小売業におけるDXの最新潮流について語った。
まず、NRF 2019に参加して感じた全般的な印象として藤井氏は、「先進流通業は、新たな成長ステージに入ったという自信を取り戻したようです」と語った。
リアル(有店舗)小売業の経営破綻や店舗の大量閉鎖が目立った2016年は、「アマゾン・エフェクト(効果)」が流行語となった。インターネット通販の巨人、アマゾンがリアル小売業をディスラプト(破壊)すると業界関係者は恐れた。
流通サービス営業統括本部流通業施策担当部長
藤井創一氏
その危機感をばねにして、大手小売業を先頭にリアルプレーヤーたちはDXへの投資を一気に加速した。中でも、DXの動きをリードする世界最大の小売業ウォルマートやスーパーマーケット世界最大手のクローガーなど先進流通業は、停滞期を抜け出し新たな成長ステージに入ったという自信を深めているのだ。
「ここ数年で、リアル小売業がDXに取り組んできた成果がはっきりと表れています。今やテクノロジーは、先進流通業の経営や現場業務にすっかり定着しました。彼らは、より付加価値の高いパーソナルな顧客体験の提供や生産性の向上を目指したテクノロジー、あるいは従業員への投資を積極的に行っており、AI(人工知能)も実業務にしっかりと活用しています。さらには、クローガーのRaaS(Retail as a Service)のように新たなビジネスモデルを立ち上げる流れも出てきました」(藤井氏)。
例えば、2018年度のウォルマートのIT投資額は120億ドル(約1兆3200億円)。これは世界の全産業で、アマゾン、アルファベット(グーグルの親会社)に次いで第3位の規模である。一方で、ウォルマートは店舗の新築・増築に関わる投資を過去5年の間に5分の1以下に絞っており、19年度の米国内における新規出店はわずか10店舗未満に抑える計画だ。投資配分を店舗からITへと大胆に見直しているのだ。
ウォルマートでは、CIO(最高情報責任者)とCTO(最高技術責任者)の2人がDXの陣頭指揮を執っている。クラウド移行などにより既存システムをアップデートしたり、処理能力を高めたりするのがCIO、デジタル技術などを使って新たな価値の提供にチャレンジするのがCTOの役割となっている。
NRF 2019のセッションに登場したウォルマートCTOのジェレミー・キング氏は、1700人にまで増強したテクノロジーチームをさらに2000人に増やす構想を語った。
「インターネット通販業者との戦いで先陣を切っているウォルマートは昨今、ロボティクスの活用に力を入れています。画像スキャンによって売り場に欠品がないかを確認する自走式ロボットや配送トラックへの商品積み込み作業を行うロボットなどを試験導入しています。また、従業員の研修用として200くらいのコンテンツを用意し、VR(仮想現実)ヘッドセットを店舗に配布して商品やサービス、顧客対応などに関するトレーニングを行っています」(藤井氏)