小売業界におけるDX戦略の最前線

少ない学習データで早期稼働できる
汎用AIを現場で実証

 最後のセッションは、日立ソリューションズ 産業イノベーション事業部 Dynamics推進センターの林由紀雄氏が担当した。

 連結ベースで1万1000人超の従業員を抱える日立ソリューションズは、国内でマイクロソフトの製品をフルラインで取り扱うほか、海外ではDynamics 365を中心としたソリューションを提供しており、米国のマイクロソフト本社および日本マイクロソフトと強固なパートナーシップを築いている。

小売業界におけるDX戦略の最前線日立ソリューションズ
産業イノベーション事業部 Dynamics推進センター
林由紀雄氏

 林氏は小売業を取り巻く環境変化と、生産性向上や新たな価値創造においてITへの期待が高まっている現状について触れた後、Dynamics 365を活用した小売業向けのソリューションについて紹介した。

 その中から、ここではDynamics 365とマクロソフトのAIサービス「Azure Cognitive Services」を組み合わせたソリューション事例について説明する。

 Azure Cognitive Servicesは、画像認識、音声認識・翻訳、文章解析などさまざま機能を持つ汎用AIで、クラウド上で提供されている。「一般的にAIを実業務で使うには、多くの学習データを集めるのが大変。その点、マイクロソフトの汎用AIは少ない学習データで、早期に利用を始められます」と、林氏はその特徴について語る。

 例えば、わずか10枚の画像データを読み込ませるだけでも、人の判断を補助するAIとしてなら十分使えるという。パンの画像からアレルゲン情報を可視化するシステムは、AIに写真5〜6枚を学習させただけで構築できることを、日立ソリューションズでは確認した。

 そして、昨年5月から6月には、高級チョコレート「ゴディバ」を取り扱うゴディバ ジャパンと共同で、スマートフォンで撮影した画像から商品情報を照会する実証実験を行った。

 ゴディバのチョコレートは、海外旅行のお土産として日本に持ち帰る人が多い。その商品を気に入った人が、パッケージをゴディバの店舗に持参し、「同じ商品はありますか?」と尋ねることも少なくないが、季節限定品や地域限定品が多いため、確認に手間取ることがあるのが悩みだった。

 そこで、日立ソリューションズでは、Dynamics 365と汎用AIサービスを組み合わせて、スマホで撮影した画像から商品情報を簡単に照会できる仕組みを構築した。このとき、AIに学習させた画像は10枚程度だった。

 この実証実験用に開発したスマホアプリは、Dynamics 365のデータベース上にある商品の詳細情報を照会し、スマホ画面に表示する。商品名や生産国の他、アレルゲンや商品の特徴など細かい情報も確認できる。

 実際にこのアプリを使った店舗スタッフからは、「個々の商品の特徴や詳細をすぐに説明できるので、お客さまのお好みを探す際にも役立つ」といった声が寄せられた。客が持ってきたパッケージと同じ商品を取り扱っていなくても、客の好みに合った別の商品を薦められるというわけだ。

 この実証実験では、計画策定からAIの学習、アプリを含むシステム構築、レポート作成までの作業を約1ヵ月という短期間で完了した。

 林氏は、「この実証実験を通じて、ビッグデータがない場合でもAIを手軽に試すことができることや、アプリケーションのスムーズな実装を確認することができました。今後、日立ソリューションズが提供するさまざまなサービスに、この実験で得たノウハウを活用していきたい」と、意欲的に語った。

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