小売業界におけるDX戦略の最前線

小売業はなくならない、
だがその姿は従来と大きく変わる

 最近、米国の小売業で注目されているキーワードとして、「BOPIS(Buy Online Pickup In Store)」が挙げられる。オンラインで注文した商品を店頭で受け取る、という意味だ。

 ウォルマートは、ここでも先頭を走る。同社はBOPISを「オンライン・グロサリー・ピックアップ」というサービス名で展開しており、2019年1月末で2100店舗だった同サービスの対応店舗を、20年1月末までに約3100店舗に増やす計画だ。

 商品の受け渡し用に店内に専用カウンターを設けているほか、「ピックアップタワー」と呼ばれる受け取り専用の自動倉庫のような大型設備を用意している店舗もある。専用アプリに表示したバーコードを機械に読み取らせると、注文した商品が受け取り口まで自動で運ばれてくる装置だ。

 このオンライン・グロサリー・ピックアップは、店舗への来店客数の増加につながっており、ウォルマートの売上高を底上げしている。同社の米国事業の四半期ごとの既存店売上高が、2019年1月期まで4年数ヵ月にわたって前年同期比でプラスを維持しているのも、同サービスの利用が広がっている影響が大きい。

 「全米をカバーする商品受け渡し拠点を持たないインターネット通販業者へのリアル小売業の対抗策の一つとして、BOPISは急速に普及しつつあります。普段利用している店舗で、自分が都合のいいときに商品を受け取れる利便性は高い。今後は、商品受け取りのためにやって来た人たちに、接客や新たな顧客体験の提供によって売り場でも買い物をしてもらい、売り上げ向上につなげていく施策が重要になるでしょう」と藤井氏は指摘する。

 実は昨年から今年にかけて、米国の小売業界ではマイクロソフトの存在感が大きく高まっている。ウォルマート、クローガーの他、大手スーパーマーケットのアルバートソンズ、そしてドラッグストア最大手のウォルグリーン・ブーツ・アライアンスが相次いで、マイクロソフトとの提携を発表したからだ。

 小売業がクラウド化やDXを推進するためのパートナーとしてマイクロソフトが選ばれている背景には、業界的な事情もあるようだ。

 NRF 2019でも、マイクロソフトは最大規模の展示ブースを出展。「顧客理解の促進」「従業員強化」「サプライチェーンの高度化」「流通業のビジネス再創造」という4つのテーマで、小売業との取り組み事例などを紹介した。同社のブースには1万9000人が来場、その注目度の高さをうかがわせた。

 藤井氏が先に触れたクローガーの新ビジネス「RaaS」は、マイクロソフトと共同で開発したソリューションをクローガー店舗で実稼働させて効果を検証した上で、他の小売業に外販するというものだ。

 その一例として、「エッジシェルフ」がある。これは売り場の陳列棚に取り付ける電子棚札で、売価だけでなく、栄養価などの商品情報や販促広告などを表示することもできる。このシステムは、マイクロソフトが提供するクラウドサービス「Azure(アジュール)」上で稼働する。

 店頭での売価変更に関わる作業を効率化できるだけでなく、センサーで顧客の属性や店内での動きなどの情報を収集、AIで分析した上で顧客一人一人に合わせた広告を表示する。これによって、小売業側はメーカーから広告収入を得ることを期待できる。

 NRF 2019で基調講演を行ったクローガーのロドニー・マクマレン会長兼CEOは、「小売業は今後もなくなることはないが、従来とはその姿を大きく変えることになる。例えば、店舗のメディア化だ。ロイヤル顧客にリーチできるメディアとして、店舗がその機能を果たすようになれば、われわれはディスラプトされる側から、ディスラプトする側に回ることになるだろう」と語った。

 ちなみに、クローガーの本社に近いオハイオ州モンローとマイクロソフトの本社があるワシントン州レドモンドの店舗で行ったエッジシェルフの実証実験では、20〜25%の売り上げ向上やブランドスイッチの効果が確認されたという。

 藤井氏は、「Azureをはじめとするマイクロソフトの広範な製品と技術は、流通業との親和性が非常に高いと確信しています。われわれはパートナーと協力しながら、流通業の課題解決を積極的に支援していきます」と語り、プレゼンテーションを終えた。

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