ポンペオ氏の必死の説得は奏功した。

 たまたま会談前夜にワシントンで、トランプ氏の元個人弁護士、マイケル・コーエン被告の米下院公聴会が開かれていたことも、トランプ氏に「安易な妥協は、自分の政治生命を縮めるかもしれない」という危機感を抱かせることに役立ったのかもしれない。

 再び、会談場に現れたトランプ氏は、金正恩氏が提示した共同声明案に見向きもしなくなり、俄然、「ビッグ・ディール」を主張し始めたという。

 金正恩「トップダウン外交」の弱点が露呈した形だ。

寧辺核施設だけの廃棄にこだわり決裂
経験値少なく柔軟性に欠ける

 元北朝鮮外交官の高英煥・元韓国国家安保戦略研究院副院長によれば、北朝鮮外務省は従来、首脳会談の2~3週間前には、「参考情報」と呼ばれる首脳会談用の資料を最高指導者に提出する。

 そこには、会談の議題のポイントや相手の交渉姿勢に始まり、相手の趣味や個人的に好む話題までが網羅されている。さすがに、模擬演習はしないが、考えられる限りの応答パターンを準備しておくという。

 あの場面で、仮に、正恩氏の父の故金正日総書記が座っていたらどうだったろうか。

 私は、長く南北協議を担当した韓国政府元高官に質問したことがある。

 元高官の答えは「金正日なら、こう答えただろう。『わかりました。では部下に米国が望む方向で協議を進めるよう指示しましょう。ただ、今日は記者団も待っている。何も発表しないわけにはいかないから、将来の非核化に向けて緊密に協力することで合意した、といった合意文を発表しましょう』だ」

 ところが、若くて経験値が少ない正恩氏は柔軟に振る舞うことができなかった。

「どうして寧辺核施設の廃棄だけではだめなのか」と繰り返すばかりだったという。

 陪席した金英哲氏も李容浩外相も口を挟めなかった。これも「トップダウン外交」の弊害だろう。義理の伯父も殺害した金正恩氏だ。下手に口を挟めば、どうなるかわからない。

 結局、2回目の米朝首脳会談はノーディールに終わった。北朝鮮は相変わらず、日本と同じように、トランプ氏をおだてるという作戦を展開しているが、状況は北朝鮮に厳しいといわざるを得ない。

 トランプ氏が、北朝鮮の保有する核兵器や核関連物質などの全面廃棄を目指すビッグ・ディールを捨てたわけではないからだ。