給与よりも「やりがい」を優先
激務による転職は減少傾向に
「転職を考えた理由・きっかけ」は、「会社の将来に不安がある」「キャリアアップのため」「給与に不満がある」の3つが上位になった。森本氏の先の指摘のとおり、会社や業界全体の将来に危機感を覚えて、転職に踏み切る人が多いということが裏付けられた格好だ。また、給与に対する不満も、実際に多く聞かれる転職理由の一つだという。
「かつて、多くの日本企業では、真面目にコツコツ働いてさえいれば、年功序列でポストが与えられて、給与も自動的に上がっていく人事制度が整備されていました。終身雇用の下で、転職せずに一つの会社で定年まで面倒をみてもらうのが当たり前だったわけですが、今は違います。成長率が著しく鈍化している企業では、ポストがなかなか空かず、昇進に時間がかかる場合も多い。日本企業では、昇進しないとやっぱり給与が上がりづらいですから、仕事でそれなりに成果を上げているのに、給与がずっとステイで変わっていないような人も少なくありません。それでは、不満に思うのも無理はないですよね」
一方で、給与は二の次として「自分の能力を試したい」「やりたい仕事に就きたい」といった理由により、転職に踏み切る人も多いという。
「もちろん、給与は高いに越したことはないでしょうが、転職前より下がっても、自分の成長につながったり、やりがいを感じられたりする仕事に就きたい、という相談が増えました。この傾向が顕著になったのは、2011年の東日本大震災以降。多くの人が人生観のようなものを根底から揺さぶられることになったあの震災を機に、自分にとって本当に大事なことは何か、お金以上に重視すべきものは何かを見つめ直した結果、働き方を変えたいと考えた人が増えたのかもしれません」
なお、勤務時間の長さ、つまり激務のために転職を考えている人は、意外にも少数だった。
「少し前までは、ブラック企業に勤めていて、ワークライフバランスがめちゃくちゃだから、何とかしたいという声もよく聞かれました。ですが、『働き方改革』が奏功しているのか、こういった相談は急速に減少してきた印象です。むしろ、100年人生において真の人生の豊かさや生き方そのものを見直す人も増えており、いくつになってもしっかりキャリアアップしたいという傾向があります」
続いて、「転職で重視する条件」を尋ねたアンケートで上位になったのは、「経験・スキルが活かせる」「やりがいのある仕事に携われる」「年収アップ」など。
自分がこれまでに培ってきた経験・スキルを活かそうとすると、同じ業界の中で転職することになりそうなものだが、異業種への転職も多いという。
「同じ業界で自身の経験・スキルを活かして転職するとなると、どうしても古巣のライバル会社に行く可能性が高くなるものです。若いうちならそれでもいいのかもしれませんが、35歳以上になると、以前の会社に少なからず恩義を感じていて、ライバル会社への転職にためらいを覚える人も。むしろ、業界には全くこだわらず、別の形で自分の経験・スキルを活かせるような転職を希望する方のほうが多いかもしれません」
逆に、重視する人が少なかったのは、会社の知名度や福利厚生の充実度合い。この結果から、大企業にこだわらない人が増えていることがうかがえる。
「実際の転職希望者でも『何がなんでも大企業!』という方は減っています。むしろ、大企業からベンチャー企業に移る人のほうが多い。そして、大半のベンチャー企業は、福利厚生制度の整備が遅れています。給与面である程度折り合いがついていて、自分の成長につながるのであれば、ベンチャー企業にも飛び込んでいく。そんな柔軟なスタイルの方が、転職活動では成功しやすいですね」