仕事や本業を通じて社会課題の解決に挑む人と組織の育成を目指すエン人材教育財団。今年「人が育つ企業」を表彰する「CareerSelectAbility(キャリアセレクタビリティ)賞」を創設した。その狙いと、栄えある第1回の受賞企業4社を紹介する。
「少子高齢化・人口減社会に突入し、右肩下がりが予測されていた日本経済。さらに今回の新型コロナウィルスの影響によって、働く人の意識や、働き方、企業の在り方が変革を迫られています。この窮地を脱するには、新しい発想を持つ若手社員の活躍が不可欠。若手にチャンスを与え、意図的に育てる必要性が高まっています。
ところが昨今、働き方改革やワーク・ライフ・バランスの掛け声の下、労働時間の削減ばかりが注目されています。生産性向上は大切であり、過労死を招くような働き方は許されませんが、今のままでは新入社員や若手社員は育ちません。日本がパラダイムシフトに乗り遅れてしまうのではないかと危惧しています」
そう語るのは、エン人材教育財団の越智通勝理事長だ。
「キャリア自己選択力®」
を育てる企業を評価
越智通勝理事長
(エン・ジャパン 代表取締役会長)
創設された「CareerSelectAbility賞」は、本業での社会貢献と高い収益を背景に、これからの社会に必要となる能動的なビジネスパーソンの育成に取り組む企業を表彰するもの。
CareerSelectAbilityとは、同理事長の造語で、直訳すればキャリア自己選択力。自分で主体的にキャリアを選べる力であり、言い換えれば、どんな環境に置かれても活躍できる力と表現できる。
「急速な変化が求められる時代、どんな業界・より多くの職種でも通用する力を持った社員の存在が、自社の競争優位性を決めるといっても過言ではありません。私たちは、そのようなビジネスパーソンの育成と活躍・定着に懸命に取り組んでいる企業を、これからの企業の理想とし、多くの方々にその姿を知ってもらいたいと考えたのです」(越智理事長)
同財団では、受賞の要件として三つの表彰軸を打ち出している。一つ目は「人財輩出性」。CareerSelectAbilityが身に付く環境を社員に提供できているか。二つ目は「本業主観正義性」。社会や業界に対して独自の問題意識と“正義”を持ち、本業である商品やサービスでその問題を解決していること。そして三つ目は「収益性」。売上高の成長と業界平均以上の売上高営業利益率が実現できていること、である。
特に人財輩出性には、四つの環境が必要だと考えている。まず社内外の競争が激しく、成長基調で活気があること。20代から困難な非定型業務に挑戦できること。性別や国籍、学歴や在籍年数にかかわらず、正当に評価される実力主義であること。そして本業の商品やサービスに対する主観正義性を、社員が当事者として実感できていること。
こうした表彰軸を基本に、数あるエントリーの中から、越智理事長を筆頭に計4人の審査員が受賞にふさわしい企業を選出。2020年の初回は、オイシックス・ラ・大地、資生堂、ベネッセスタイルケア、YKKファスニング事業本部(五十音順)の4社が受賞した。各社に対する評価のポイントの詳細は次ページで紹介するが、いずれも高い収益性を維持しながら、本業で社会課題に挑み、独自にCareerSelectAbilityのある人材育成に取り組んでいる企業である。
優秀な若者はもっと
働きたいと言っている
「企業に求めたいのは、もっと若手に成長へのチャンスを与えてほしいということ。大手企業の多くは、30代半ばまで責任ある仕事を与えていません。そのため、実際に、一流大学を出て大手・有名・老舗・年功序列企業に就職した20代優秀層の転職が、増えています。彼ら彼女たちは、もっと自分を鍛えられる環境なら、ベンチャー企業でもいいと考えている。この動きは今後さらに増えていくと思います」と、越智理事長は大企業に警鐘を鳴らす。
鍛えられる環境というのは、怒鳴られたり、長時間労働を強いられるという意味ではない。例えば、上司がハードル高めの要望をする、チャレンジングな仕事を与える、自分の頭で考える機会を与える、などの環境のことだ。こうした環境が与えられないまま、単に仕事をこなしていると、社内に使えない中高年人材が滞留し、企業は衰退してゆく。
「繰り返しますが、今の日本が置かれた経済状況を見れば、“働こう”と言わなければならないときに、大手ほど“休もう”と言っている。これでは会社を担う優秀層が逃げていってしまいます。彼らはもっと働きたいと言っているのです。創設した『CareerSelectAbility賞』の受賞企業は、私たちが自信を持って評価させていただいた人が育つ企業。今後は毎年、本賞の受賞企業が、就職・転職に向かう若者たちの憧れの企業になってほしいと考えています」(越智理事長)