データ駆動型企業への変革、AI活用の6つの要諦
日本企業がAIの時代を生き抜くために(前編)

リモートワークやオンライン授業の急速な普及、そして遠隔医療の規制緩和など、新型コロナウイルスの感染拡大は、経済・社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)を一気に加速させようとしている。DXはデータの利活用による企業変革がその本質であり、キーテクノロジーとしてAI(人工知能)を駆使することが変革推進のドライバーとなる。日本企業がAIの時代を生き抜くために、取り組むべきことは何か。PwCコンサルティングの藤川琢哉、河野美香、山上真吾の3氏に聞いた。

データ駆動型企業への変革、AI活用の6つの要諦日本企業がAIの時代を生き抜くために(前編)(左から)PwCコンサルティングの藤川琢哉氏、河野美香氏、山上真吾氏

コロナ危機でDXにアクセルを踏む企業が増えている

 21世紀はデータエコノミーの時代といわれる。ビッグデータを利活用して、製品・サービスの品質や労働生産性を向上させたり、一人一人の消費者や従業員にパーソナライズされたエクスペリエンス(体験)を提供したりすることができるかどうか。それが、企業の競争優位を大きく左右する時代になった。

 新型コロナの感染拡大は、データの利活用を軸としたDXが経済・社会にとって喫緊の課題であることを改めて浮き彫りにした。PwCコンサルティングにおいて、アナリティクス&AIトランスフォーメーションを担当するチームでも、コロナ危機をきっかけにデータ利活用に関する相談が一段と増えているという。

 「例えば、リモートワークが急速に広がったことで、労務管理の高度化が求められています。PC(パソコン)の操作、メール、カレンダーアプリなどのログデータから社員の働きぶりや労働時間を可視化できないかという相談が寄せられるようになりました。リモートワークで生産性が上がった人とそうでない人の違いをデータから分析することを検討している企業もあります」(藤川琢哉氏)

 いずれも、以前からDXに向けた検討課題となっていたテーマではあるが、「コロナ危機をきっかけにDXにアクセルを踏み始めた企業が増えたので、自社も遅れてはならないという意識が高まっているようです」と、藤川氏は語る。

 データを利活用するために欠かせないケイパビリティー(組織能力)がアナリティクス(分析)であり、中核的テクノロジーとして期待が高まっているのがAIである。

 例えば、PwCが世界のCEO(最高経営責任者)を対象に毎年行っている「世界CEO意識調査」(「Annual Global CEO Survey」)では、2015年(第18回)の調査で84%のCEOがデータアナリティクスを「自社に重要な技術革新」として挙げ、2016年(第19回)調査では68%がデータアナリティクスを「ステークホルダーとの関わりにおいて効果を発揮するテクノロジー」だと回答している。

 クラウドコンピューティングやIoT、5G(第5世代移動通信システム)など新たなテクノロジーの普及により、今後、世界のデータ量は指数関数的に増大していくものとみられる。

 米調査会社IDCは、全世界で1年間に生成されるデジタルデータの量は、2018年の約33ゼタバイト(約33兆ギガバイト)から2025年には約175ゼタバイトに急増すると予想している(IDC「Data Age 2025」)。

 このような時代においては、アナリティクスとAIを駆使するデータドリブン型の企業が、世界経済のけん引車となっていくだろう。PwCはAIに関する調査レポート「Sizing the prize」(2017年)で、AIがもたらす世界経済の押し上げ効果は、2030年までに15兆7000億ドルに達すると予測している。

データ駆動型企業への変革、AI活用の6つの要諦日本企業がAIの時代を生き抜くために(前編)藤川琢哉PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
CIOアドバイザリー・サイバーセキュリティチームで全社IT・セキュリティトランスフォーメーションに従事した後、PwCのデータアナリティクスチームに設立メンバーとして参画し、10年超にわたってデジタル領域のコンサルティングに関わる。現在は、CDO補佐の役割で多数の企業のDXを支援している。

 藤川氏は、「世界のCEOにとって、アナリティクスとAI活用が経営上の重要なテーマになっています」と指摘する。2019年(第22回)の「世界CEO意識調査」では、63%のCEOが「AIが世の中に与える影響はインターネット革命よりも大きい」と回答していることからも、その指摘はうなずける。

 しかしながら、「AI活用は、世界的に見てもまだ発展途上の段階です」。河野美香氏は、そう述べる。

 同じ2019年の「世界CEO意識調査」で、「AIを活用した新たな取り組みは事業運営の礎である」と答えたCEOは3%、「AIを活用した新たな取り組みを組織内で幅広く展開している」は6%にとどまっており、実際のビジネスでAIを広範囲に実装している企業は全体の1割にも満たない結果となった。

 一方で、「今後3年間にAIを活用した新たな取り組みを開始する計画がある」は35%、「すでにAIを活用した新たな取り組みをビジネスで導入しているが、限定的な利用である」が33%となっており、「現時点ではAIを活用した新たな取り組みを実行する計画はない」を含めると、全体のほぼ9割はAI活用に未着手、または着手していても極めて部分的であることが分かった。

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