例えば、人事要件として「チームに貢献できる人を集めたい」と考え、採用のキーワードとして「協調性」を掲げ、関係者全員の認識合わせを図ろうとします。しかしながら、そこに補足として若干の人物像や説明文が書かれていたとしても、やはりそこにも「リーダーシップ」や「コミュニケーション」という言葉が踊っています。
こうした状況で、協調性のある人材を採ろうとしても、現場から遠いレベルの役員クラスは表現力で示す「協調性」に注目し、現場に近い面接官は行動に表れる「協調性」を期待するといった「揺らぎ」が生まれます。もちろん、この「揺らぎ」こそが多様性を生む、ととらえる向きもあるかもしれません。しかしながら、ビジネス書に出てくるような標準化された「キーワード」での合意形成は、少なくとも採用の継続性を図る上ではリスクとなることは間違いありません。
数十人規模で取り組む企業の採用活動においては、それらの関係者全員が同じ方針を共有するためには抽象的な言葉では足りないことがあります。
企業が、採用の仕組み化を本気で考えるのであれば、「直感」の恣意性や「言葉」の多義性などのリスクをできるだけ排除する必要があります。
「人」ではなく
「行動」をデータ化する
20世紀の経営学者フレデリック・テイラーは、その著書『科学的管理法』で、習慣や直感などに基づいたアバウトな生産管理手法に疑問を呈しました。具体的には、「レンガ積み」の作業の方法と道具が数百年にわたって進歩していないことを批判し、科学的な管理手法を取り入れることで生産効率が上がることを説いたのです。
もちろん単純労働である「レンガ積み」と、ホワイトカラーの複雑な「人事評価」とを同列に語ることはできません。そして、科学的な人事管理であるはずの、言葉による能力評価が、完全に機能していないこともすでに見てきたとおりです。
そこで、「言葉」による揺らぎを避けながら、直感部分をできるだけ仕組み化する方法として私が提唱したいのがコンピテンシーをはじめとする、「行動」に着目した人材評価手法です。
しかし、コンピテンシーなどの行動評価は、仕事の現場に見られる具体的な行動で人材を評価するために、能力と仕事の成果とが結びつきやすくなります。なぜならば、具体的な行動を基準にすることで、評価する人の恣意性が入りにくくなるからです。