例えば、ひとくちに「コミュニケーション力」というと人によって意味の揺らぎが表れますが、「会議の最初に発言ができること」と定義することで、評価が一定になり、多数の面接官の間に、人事戦略を徹底することができるようになります。行動にもっと着目し、行動で人物像を見ていくことこそが、人材を資源化するための最適な手法であると私は考えています。

 すでにこうした観点を、実験的ながら採用活動に取り入れている企業も生まれつつあることが、次のような声にうかがえます。

「現在、コンピテンシーや行動評価の考え方を取り入れた独自の採用指標づくりに取り組んでいます。例えば、当社で営業管理職として成功している職員のデータから客観的な行動特性を抽出し、営業管理職への早期登用をめざすコースの評価基準の一つとしています。もちろん、面接官には営業管理職としての経験に基づいて主観的にも評価してもらいます」(明治安田生命保険 人事部 寺尾氏)

 現在、多くの企業で、人事評価をデータ化しようとの取り組みが行われています。

 それは、上司からの能力評価といった定量的なデータと、社員へのアンケートをまとめるなど定性的なデータとの2種類に分けることができますが、いずれも行動ではなく言葉としての蓄積に過ぎません。そのため、せっかく集めたデータも参考程度にしか活用されていないことが多いようです。

 しかし、具体的で目に見える行動をデータ化していくことで、長期的に企業に貢献する人材の指標を作り出すことができるはずです。

データ化は
経営、人事、現場の三者をつなぐ

 企業の採用においては、一見、「経営―人事―現場」という縦のラインがあるかのように見えます。1次面接、2次面接が現場の人で、3次面接が人事、最終面接が経営者ともなると、ますますそのようにとらえられるのも無理はありません。

 しかし、「経営―人事―現場」の三者は、一見つながっているように見えても、実はつながっていないことが多いのです。先ほど示した例のように、現場は経験や直感に基づく現場の論理で応募者を評価し、人事はより客観的な視点から応募者を見ることに力を入れ、経営陣はしばしば単なる好き嫌いやあまりに大局的な観点から、人材を評価しようとします。