もちろん、経営陣にも現場の人間にも「このような人材が欲しい」という漠然としたイメージはあります。しかし、このときに共有されるべきイメージが、十分に形式知化されておらず、個々人の感覚的な判断に委ねられているところに三者の評価に一貫性がないことの問題点があるといえそうです。

 経営資源への還元に軸足を置いて、戦略的に人材の採用や教育を行っていくためには、単なる直感にとどまらず、科学的な方法を取り入れて、ブレないモノサシをデータベースとして構築する必要があります。

「データベース」というと、何となく多様な側面を持つ人間を一面的に整理するようなネガティブなイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、実際には、データベース化を行ったほうが、より個人を大事に扱うことができるのではないかと私は考えています。

 そもそも、もしデータベース化をまったくしないとしたら、多くの人を曖昧模糊とした印象だけで把握することになります。相手が1人か2人で、しかも多くの時間を一緒に過ごしているのであれば、もちろんデータ化するよりも濃密な判断ができるでしょうが、その人数が膨大になったときでも同じことが可能でしょうか。

 人間の理解の限界を超える人数について、データ化をせずに直感や印象で判断することは、逆に個々人の可能性を取りこぼしてしまうことにつながります。

 処理するべき数が多いときには、適切なデータ化は、逆に人間の能力によるとりこぼしを防ぎ、個別の人間に寄り添うことを助けるものです。企業の人事が処理をする、膨大な量の応募者について、その人がどのような人かを具体的に理解しようとしたときに、データ化は必須となるでしょう。

「直感」に基づいた人事では、個人の可能性を最大公約数で取り込むことが難しくなっています。また、「直感」が個々人に依存するものである以上、そこに継続性をつくることも難しいでしょう。社員の知が企業の最大の財産であり、個々人の能力を資源化して長期的に保持していかねばならない現代においては、「直感」や恣意的な「能力評価」だけではなく、行動を基にしたデータを頼りに実践する<科学的人事>が必要になるはずです。

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