日本のスタートアップがグローバルで活躍するための条件とは?

日本のスタートアップがグローバルで活躍するための条件とは?スマートフォンからリアルタイムで空き情報が分かるため、限られた時間を有効に使える

近年、グローバル展開を志向する日本のスタートアップが増えてきている。そうしたスタートアップが海外で成功するためには何が必要なのか。海外展開で成功しているスタートアップ2社の実例を紹介するとともに、それらのスタートアップ経営者と識者の3人が、日本のスタートアップの現状と未来について語る。

 AIやIoTを活用し、 レストランやカフェ、オフィスのトイレなどあらゆる場所のリアルタイム空席情報を提供するのがバカン(VACAN)だ。1秒で、レストラン、商業施設、トイレ、ホテルの大浴場、会議室など知りたい施設の空き状況が分かる。センサー、カメラ、人力で瞬間のリアルタイムの空き状況を可視化するサービスは、コロナ禍の現在、あらためて注目を集めている。

リアルタイムの空席情報で
「優しい世界」をつくる

 バカンCEOの河野剛進氏が起業したきっかけは、「自分がそういうサービスを欲しかったから」だった。

「子どもを連れて商業施設に出かけたとき、混雑しているレストランやトイレの行列待ちで、子どもがぐずり出してしまってそのまま帰ることが重なり、外出が億劫になってしまったことがあったんです。もしもレストランやトイレなどの空き状況がリアルタイムで分かるサービスがあれば、限られた時間をもっと大切に使える。そうなれば心に余裕ができて、誰もが優しくなれる。そう考えたんです」

 2016年6月に同社を設立。立ち上げ当初から、世界展開を考えていたという。「時間に対する価値を高めたいという欲求は世界共通。ですからわれわれのサービスも日本だけではなく世界中で当たり前に使ってもらえるはずだと考えていました」(河野氏)。19年、まだ日本でのビジネスが完全に立ち上がったタイミングではなかったが、ためらうことなく次のステップを踏み出す。

日本のスタートアップがグローバルで活躍するための条件とは?上海の現地法人で中国展開の指揮を執るバカンの里見吉優APAC事業部長

「中国はそもそもマーケット規模が大きい。人口が多いため実証実験も数多く実施でき、データが取れる。急速に生活水準が上がっていて人も多く混雑が起こりやすいため、こうしたサービスの需要がある。国が違えば必要な技術も違うため、その知見が蓄積できる」(河野氏)などの理由で、中国への進出を決めた。中国駐在経験がある里見吉優氏が、上海に設立した現地法人の責任者として指揮を執った。

 中国に進出することは決めたものの、何から始めればいいのか、何に気をつけるべきなのか、全く分からない状態だった。そこでサポートしてくれたのがJETROだった。どんな規制があってどう対処すればいいのかなど懇切丁寧に教えてくれた。

 顧客の開拓やビジネス人脈の構築にも苦労した。創業間もないスタートアップで知名度が高いわけではなかったため、面談のアポイントを取るのも一苦労だった。そこでJETROのビジネスマッチングのサービスを使って顧客獲得につなげていった。「最初の入口でJETROの方々にサポートしていただけて本当にたすかりました。たぶん私たちがJETROを一番使い倒しているスタートアップなんじゃないでしょうか(笑)」(里見氏)。

 上海で現地法人を開設して1年半。シェアオフィスで実証実験を重ね、営業を本格化しようとした矢先に新型コロナウィルスの感染が拡大し、社員はいったんそれぞれの地元に帰った。その後中国では世界に先駆けてコロナが収束したため、コロナ前に商談していた客から受注が入るなど、直近では顧客が増えているという。

オフィスのトイレで
高い需要がある中国

 中国で最も需要があったのはオフィスのトイレだ。中国ではオフィススペースをできる限り広くするため、もともとトイレの数が少ない。またトイレを個室スペースとして使う人が多く、中で仮眠をとったり、スマートフォンのゲームに熱中したりしているため、常に混雑して列をなしている状態だという。バカンの空室情報サービスを導入すれば、従業員の時間が無駄にならないので生産性の向上につながり、同時に従業員の福利厚生にもなるため会社へのロイヤリティも高まると好評だ。

 台湾でもサービス展開を始めており、こちらはカフェが中心だ。今後は日本人が多く訪れ日本のプレゼンスがあるところや、日本になじみのある地域、例えばハワイなどでの展開を検討している。

「コロナ禍で顧客のニーズが変化している」と河野氏。日本では、利便性よりも安心・安全面でのニーズが高まっており、問い合わせもかなり増えているという。3密を回避するためのサービスとして注目されており、観光地の江ノ島では町単位でサービスを導入している。

 もう一つ、避難所の混雑状況の可視化も、新たなニーズとして顕在化している。コロナ禍で避難所の受け入れ人数が制限されていて入れず、たらい回しにされる事態が発生したのだ。実際にサービスを導入した宮崎県の日南市では、20年の台風10号が直撃した際に、人口5万人のうち約1万人がバカンのサービスを利用したという。

「いま空いているか、1秒でわかる優しい世界」をつくることをミッションとしているバカン。これまで行ってみないと分からなかった空き状況をリアルタイムで知ることができるサービスは、さまざまな領域、さまざまな国・地域に展開することが可能だ。河野氏が「自分が欲しいと思ったサービス」はどこまで広がっていくだろうか。

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