海外展開で成功しているスタートアップ、VACAN(バカン)CEO、河野剛進氏と、Global Mobility Service(GMS)のCEO、中島徳至氏、そして経営学を専門分野とし、自身もスタートアップ経営に関わる慶應義塾大学SFCの琴坂将広准教授の3人が、日本のスタートアップが海外で活躍するための条件、現状抱えている課題、そして未来について語る。
生き残りのカギは変化への対応
現地との対話が不可欠
琴坂 まず、お二人が創業初期からグローバルでビジネスを展開するという挑戦を選ばれた理由を教えていただけますか。例えば、まずは国内市場に集中し、充分な投資余力を得てから海外を狙うという道もあったのではないでしょうか。
中島 そこ(フィリピン)に社会課題があったからですね。電気自動車をつくって売る以前に、頑張って働いているのにローン審査が通らず仕事で使う車を買うことができない人に、ローンを組む機会を提供するサービスを開発することの方が世の中にとって大事だと気づいてしまったからです。
河野 私の場合は、自分がそういうサービスが欲しかったからです。レストランやトイレが空いているかどうか瞬時に分かるサービスがあれば便利だし、心に余裕を持てて他の人にも優しくなれるんじゃないかと。時間に対する価値は世界共通ですから、最初から海外展開を考えていました。
琴坂 つまり、どこに課題があるか、どこにニーズがあるかをゼロベースで考えると、自然と海外からという選択肢が生まれてきたということですね。ただ、その選択肢を取るとしても、海外で戦い抜く、競争に打ち勝つことが必要になると思います。全てのスタートアップが成功できるわけではありません。お二人は、海外での厳しい競争を生き抜くには何が必要であるとお考えですか。
河野 私たちもまだ試されているフェーズだと思いますので、その前提でお話しすると、やはり変化を受け入れることだと思います。最初は変化することが怖かった。環境が変化する中で自分たちがどう変わればいいのか分からなかったからです。でも自分たちにできることは、お客さまの声を聞き続けながら、お客さまと一緒になって価値をつくっていくことだと気づきました。
琴坂 対話が大事だということですね。そして変化し続けると。
中島 私も変化にどう対応していけるかだと思います。コロナ禍などの厳しい状況は、逆に事業の可能性が広がるチャンスと捉える。収入減で今までローン審査を通っていた人が通らなくなる。そうなると、私たちのようなソリューションで与信補強の支援が必要になりますから。
琴坂 特に近年は、国際展開のリスクが増加しているように思えます。米中対立などの地政学リスクや、現地での外資に対する拒絶反応などのさまざまなリスクにどう対処されていますか。
中島 私たちの場合は、国によって施策や考え方がそれぞれありますから、まず対話を通してどんなことで困っているのかを理解し、その国や代表的な金融機関からのオファーを受けて展開する形を取っています。対話しながらサポートしていく形で参入することがリスクヘッジになっています。
琴坂 他人として展開するのではなく、知人として展開するということですね。まさに、現地のネットワークに参加し、コミュニティーの一員となっていくプロセスは、とても重要だと思います。
河野 やはり相手国の政府や現地のパートナーと一緒にやることが重要だと思っています。中国や台湾の政府系アクセラレーションプログラムに採択されているので、そこでネットワークを作ったり、例えば、台湾の有名なIT系スタートアップのKdan Mobile Softwareと提携していますが、パートナーと一緒に成長しながらビジョンを創っていくことがリスクヘッジになると考えています。
琴坂 お二人とも、地域に深く根付く。その国に寄り添う、という方向ですね。その際、日本企業、日本人であるということの強みは何でしょう。また、逆に弱みは何だと思われますか。