世界では年間1億人が新車を購入している。ところが、車が必要であるにもかかわらず、購入のためのローンが組めない人々が実際には17億人いるという。GMS(Global Mobility Service)は、「真面目に働く人が正しく評価されるしくみ」を標榜し、IoTとフィンテックを活用して、ローン審査が通らない人々に車を購入する機会を提供し、雇用を創出して人々の暮らしをより豊かにすることにグローバルで貢献している。
IoTとフィンテックを活用した
モビリティサービスで社会課題を解決
創業者でCEOの中島徳至氏は、もともと電気自動車(EV)の開発に携わり、GMS設立前にEV製造のスタートアップを2社創業した経験がある。もともと「メーカー」だった中島氏がなぜ、「モビリティサービス」を提供するGMSを起業したのか。
「2社目はフィリピンで創業したのですが、そのとき、いくら環境に優しくて素晴らしいEVを造って市場投入しても、ほとんどの人がローン審査に通らず、貧困に陥っているという事実を目の当たりにしました。ただ単にモノとしての車を造っているだけではだめで、それを購入できるようなサービス開発が必要だと痛感したのです。ASEAN各国共通のニーズでもありました」(中島氏)
フィリピンではトライシクルという、バイクにサイドカーをつけた三輪タクシーのドライバーとして生計を立てている人が多いが、そもそも8割近くの国民が銀行口座を持たず、ローンが組めないため、高い賃料で借りた車を使って働かざるを得ない。所得が増えないので、ドライバーの9割が低所得者層であるという。
ローンさえ組めれば、収入を増やし、生活の質も上げられる。真面目に働く意志も実績もあり、ローンの返済も可能であるにもかかわらず、従来の金融機関の規準では、資産や信用がなく、与信審査を通らないことがボトルネックになっていた。
これを打破するために、中島氏が目をつけたのは、携帯電話、電気、水道、ガスなどの使用料がプリペイドであることだった。プリペイド分を使い切ると電話や電気などは使用できなくなるが、窓口で入金すれば、すぐに使用を再開できる。「同じことを車に適用すれば、車は仕事で稼ぐために不可欠なので、支払いが優先されるだろうと考えました」(中島氏)。
支払いが滞った際に、遠隔で安全に車を起動制御するIoTデバイス「MCCS」を開発。さらに、近くのコンビニエンスストアや、キャッシュディスペンサーで入金すれば車がすぐ動くように、現地の金融機関と決済連携をした。GMSは利用者からお金をもらうのではなく、ローンを提供する金融機関と利益をシェアする仕組みだ。
デバイスから取った情報はモビリティサービスプラットフォーム(MSPF)上で一元管理する。利用者が車を使って朝から晩まで働いているという事実がリアルタイムで記録されるので、それが与信データにもなる。これまでGMSのサービスを利用した車両の総走行距離は約1億9500万km(2020年12月1日時点)で、デフォルト率はわずか0.9%。デフォルト率が低く、与信データも可視化されているので、金融機関も安全なスプレッドを設定できる。
デジタル、アナログ
両面から地域に密着
最新のテクノロジーを駆使し、デジタル化を徹底しているが、同時にコミュニティーの尊重も重視している。フィリピンでは3年間のローンを払い終わったドライバーとその家族や友人たちを招き、同社がパーティーを開催する。「懸命に働き車を持つことができた父親の勇姿を家族に見せてあげたい」(中島氏)からだ。このようにして、デジタル、アナログ両面から、深く地域に根付いたサポートで信頼を獲得している。
フィリピン、カンボジア、インドネシア、日本でサービスを展開している。テクノロジーは世界共通仕様で、グローバルワンデバイス・ワンテクノロジーだが、サービスはあくまで、ローカルのニーズに密着し、現地との対話を重ねながら柔軟に対応する。カンボジアでは新車が高いので、中古車を中心にしたり、インドネシアではライドシェアが盛んなので、2大大手のグラブ、ゴジェックと連携したりといった具合だ。
もう一歩踏み込んだ支援が必要
GMSは2017年にJETROの「日ASEAN新産業創出実証事業」に採択され、支援を受けた。また海外進出時には、現地の信頼できる税理士を紹介してもらうなどJETROの持つネットワークを活用している。これらのサポートについては「非常にありがたい」と感謝しつつ、中島氏は「あともう一歩踏み込んだ取り組みをやっていただけると本当に助かる」と話す。
「私たちは2030年までに1億人の方々にファイナンスを提供したいという目標を掲げています。ただ、私たちのビジネスモデルは従来にない画期的なものなので、常識や固定概念が強い金融機関からするとすぐに提携しましょうとはならない。そこを政府やJETROの方々の信用力で背中を押していただき、一緒になって私たちのソリューションを各国に広げていけたらいいと思っています」