日本企業のレガシーが
スタートアップのアドバンテージに
琴坂将広 准教授
Masahiro Kotosaka
慶應義塾大学環境情報学部卒業。博士(経営学・オックスフォード大学)。小売・ITの領域における3社の起業を経験後、マッキンゼー・アンド・カンパニーの東京およびフランクフルト支社に勤務。同社退職後、オックスフォード大学サイードビジネススクール、立命館大学経営学部を経て、2016年より現職。上場企業を含む数社の社外役員・顧問を兼務。専門は国際経営と経営戦略。著書に『領域を超える経営学』(ダイヤモンド社)などがある。
河野 バカンは、日本の一極集中という状態に身を置いていたからこそ、課題に気づくことができた。もしサンフランシスコにいたら気付かなかったでしょうね。起業すると、中国や台湾でも同じ課題があることに気付きました。その環境にいるからこそ気付けることがあり、そういうものを見つけて解決する形で事業をブラッシュアップしていきたいと思っています。
琴坂 「課題先進国」日本にルーツを持つからこそ課題に気付けたと。日本で先行している課題に取り組むと、グローバルな事業チャンスにつながることもあるというのはおもしろいですね。
中島 私は学生時代から「ものづくりが強い日本」を見てきました。先人の遺してくれた善い行いや、優れた製品というレガシーのおかげで、今、さまざまな国で温かく受け入れてもらえています。翻って今を生きる私たちは何を残せるのか。どうすれば受けた恩恵を還元できるのか。それは日本の優れた製品が世界で通用し続けるようなサービスプラットフォームをつくることだと思っています。
琴坂 先駆者として国際展開を果たしてきた日本企業が残してくれた高い評判、実績を活用できるということですね。逆に、日本にルーツを持つことの弱みはありますか。
中島 海外進出する日本の企業の多くは、オペレーション志向が強過ぎるように感じます。生産効率や利益率を上げる取り組みは評価されるのですが、破壊的創造や新しい取り組みへの寛容性、一緒に新しいものを創ろうという気概が薄れているのは残念ですね。
河野 言語の壁はあります。それを乗り越える努力はしていますが、本当に信頼を得ようとすると、現地メンバーの協力が欠かせない。日本企業だからということではなく、外資がその地域に根差すには、表面的な言語レベル以上に、文化理解が必要ですね。
琴坂 日本に強い文化があることが逆に新しいものを、異なるものを受け入れることを阻害する傾向があること、そしてもちろん言語の壁ですね。大学教員として、私もこうした弱みは出来る限り教育の点から改善したいと考えています。
さて、両社とも、グローバル展開の際にJETROから支援を受けています。今振り返ってみて、有り難かったサポート、欲しかったサポートは何ですか。
ネットワークづくりに
JETROを活用する
中島徳至 CEO
Tokushi Nakashima
1967年、岐阜県出身。東京理科大学大学院総合科学技術経営研究科修了。1994年、電気自動車ベンチャーのゼロスポーツ設立。その後、フィリピンにて電気自動車製造開発を行うBEET Philippines Inc.を設立し、CEO兼代表取締役社長に就任。2013年、Global Mobility Serviceを設立。世界最大のグローバル起業家コミュニティエンデバー「2018エンデバーアントレプレナー」、Forbes JAPAN「日本の起業家ランキン BEST10」で2019、2020、2021年と3年連続選出。岐阜大学大学院客員教授。
河野 私たちは海外に出るときにJETROに一から相談して、全く知らなかった現地のリスクを教えてもらったり、ハードウエア規制関連の専門家をアサインしてもらったり、現地のパートナーや、日系企業を紹介してもらえて有り難かったですね。
中島 私たちも現地の信頼できる税理士や弁護士を紹介してもらって、そこでのネットワークを作っていただいたのは本当に助かりました。JETROの海外でのプレゼンスは非常に大きい。私たちの事業は、現地政府や地方自治体に理解してもらうと事業展開が加速するので、そうした機関に水先案内人として一緒に来てくれると助かりますね。先方の担当者が会ってくれるかどうか、アポイントの優先順位も全然違いますから。
琴坂 スタートアップは知見やノウハウやプロダクトがあったとしても、進出先ではネットワークやプレゼンスがない。JETROが持つネットワーク、プレゼンスの活用は大きな力になるということですね。
河野 英語でのピッチなども、JETROに支援プログラムがあるんです。でもそうしたことがスタートアップにあまり知られていない。それはもったいないですね。私たち2社も選んでいただいた、J-Startupのような、薄く広い一律支援ではない、選別支援があるのにも驚きました。
中島 オペレーションの改良のような連続的イノベーションだけでなく、破壊的イノベーションで国を成長させるんだという観点を持っていただき、大企業とJ-Startupが対等な関係で融合、連携するプラットフォームができるといいなと思います。