発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター。こちらは2020年12月8日の記事の再掲載です)。

発達障害の僕が発見した「食事はラーメンとコンビニでいいや」という人に伝えたいたった一つの事実

「栄養だけ」は、心の健康を崩す

 自炊、していますか? 僕は「自炊ができるか」を、自分の心と体のバロメーターにしているところがあります。

 きちんと栄養を摂る。これが自炊の第一の目的です。しかし、三大栄養素といわれる炭水化物、タンパク質、脂質。これに加えて、ビタミンやミネラル、そして食物繊維。これらを三食でバランスよく摂取することを考えると、脳がもじゃもじゃします。

 適当な食事をやっているとそれはおおよそ「炭水化物ばかり食べてお腹をふさぐ」ということになりがちです。安価で手間なく食べられる食べ物というのはだいたいのところ炭水化物ですよね。菓子パン、インスタントラーメン、おにぎり……。

 僕がかつて月収6万円だった頃のこと。栄養を最高効率で摂取するために「究極お好み焼き」というやつを3食つくって食べていたことがあります。これは、薄力粉に青汁の粉、プロテインの粉、トドメに難消化性デキストリン(食物繊維)の粉を加え、水で練ってフライパンで焼くという「ディストピア料理」なのですが、これに食塩を加えてビタミン・ミネラルなどをサプリメントで補うと、だいたいは完全栄養食品といえなくもない感じに仕上がります。

 当時はとにかくお金がなかったので、安く健康に過ごす名案だと大変喜んだのですが、結果として僕は思い切り体調を崩して寝込むことになってしまいました。食事というのは身体の栄養であるとともに「心の栄養」でもあります。人間にとって最も根源的な娯楽である食事でこういうことをしてしまうと、精神的にガックリときてしまうのです。

 古代の大金持ちがたくさんの奴隷を使役する上で「食事がまずすぎると暴動が起きる」という教訓を残したと何かの本で読んだことがありますが、現代を生きる我々にとってもその事情はあまり変わりません。長引く会議にピザが届いたら一気に場の空気が和やかになった、そんな体験をしたことがある人は少なくないでしょう。

 つまり、自炊においては「最低限娯楽として機能する程度においしい」というのが絶対にクリアしなければいけない壁になるということです。

「世界一意識が低い食材」を揃えよう

 そこでおすすめしたいのが「食べ物のベース」という捉え方です。これは平たくいえば、台所に常備しておく食品のことです。何はなくても、ウチの台所にはだいたいこれがある。この安心感を手に入れましょう。

(1)麦
 まず、ベースの最初におすすめなのが「麦」です。お米はどうしても糖質に偏りますが、ここに麦を加えて炊くことで食物繊維が加わり、今流行りの糖質を気にする(GI値がどうとかこうとか)健康法にも対応できます。この「麦」、昔は押し麦などでお世辞にもうまいとはいえない食べ物だったのですが、最近よく見かける「もち麦」は大変においしい。米びつのお米に味覚的許容量の限界まで(僕は5割くらい入っててもおいしいと思います)混ぜてしまうだけで一気に栄養が改善します。

 究極を目指せばここに玄米を加えることで、これだけ食べていてもそれなりに長期間は生き残れるのではないかというくらいの健康食になってしまうのですが、玄米は風味で好みが分かれるのと、浸水の時間を長くとらなければならないので「米を炊くだけで辛い」みなさまにはおすすめしません。

(2)ミューズリー
 麦に加えて、極めておすすめできるのがミューズリーという食品です。これは、より本質に回帰したコーンフレークというか、乾燥した穀物を寄せ集めて風味づけにドライフルーツなんかを加えた食品なんですが、雑穀の寄せ集めだけに栄養価は抜群。これに牛乳や豆乳をかけたものを朝食用に取り入れるだけで一気に栄養は改善します。食物繊維がたっぷりで噛み応えも豊かなのがダイエット中にはうれしい。若干「トリノエサ」といわれてしまうフシもありますが、その辺が気になる人は別途ドライバナナでもドライレーズンでも買ってきて追加するといいでしょう。

(3)卵
 次はタンパク質です。まず、卵は常備したいですよね。卵は生食さえしないのであれば、けっこう長期保存も利く実に便利な食品です。

(4)ギョニソとかお肉とか干物とか
 卵以外だと「冷蔵庫にはだいたい肉か魚か、最悪魚肉ソーセージ(ギョニソ)はある」くらいの状態を保てば全然OKです。肉なんか焼いて食べればみんなおいしいですし、魚の干物は冷凍も利き、凍ったまま焼いてしまうことも十分可能です。一番ラクで、生でも食べられるのがギョニソです。初心者はここから始めてください。ベーコンなんかも日持ちしていいですね。ブロックで買うのがおすすめです。

(5)ずぼら野菜ベスト5
 とりあえず常備の野菜は「じゃがいも」「にんじん」「玉ねぎ」「キャベツ」に絞るのがおすすめです。というのも、この4つは保存性が非常に高いからです。キャベツはちょっと劣りますが、それでも葉物の中では最高クラスの性能です。反対に、最も扱いにくい野菜は生トマトです。「トマト缶」で代替しましょう。