発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター)。

発達障害の僕が発見した「レシピを見ないと料理ができない人」と「冷蔵庫の残り物で料理できる人」の差

料理の「メタ化」とは何か

 本書で説明した味つけの基本、「おいしい料理=十分な量のうまみ+適切な塩分」「調味料は風味をつけるもの、入れすぎてはいけない」この2つをおさえておくだけで、実はあらゆる料理は無限に応用することができます。試しに、肉じゃがの応用を考えてみましょう。肉じゃがの標準レシピは、こんな感じだと思います。

 【肉じゃがのレシピ】
 1 豚肉を炒める
 2 玉ねぎ、じゃがいも、にんじんを加えて炒める
 3 だし汁《うまみ》を加える
 4 塩《塩分》、しょうゆ《風味》、砂糖、みりん《甘味》、などを加えて味が染みるまで煮込む

 アレンジするときに重要なのが、「だし汁は味つけの基本で出てきた《うまみ》だな。十分に加えよう」「しょうゆは《風味》をつけるものだから、入れすぎに注意だな」と、材料ひとつひとつの抽象度を上げて考えていくことです。さらにいえば「豚肉は《肉》だから他の肉に換えられるかな」「にんじんを、他の《野菜》に換えられるかな」と考えると、応用の幅がどんどん広がります。

 たとえば、豚肉を鶏肉に変更し、だし汁を鶏ガラスープに換えてみましょう。にんじんはネギにでも換えてみますか。これで「中華風肉じゃが」ができあがりました。

 【肉じゃがの応用レシピ①:中華風肉じゃが】
 1 鶏肉を炒める
 2 玉ねぎ、じゃがいも、ネギを加えて炒める
 3 鶏ガラスープ《うまみ》を加える
 4 塩《塩分》、しょうゆ《風味》、みりん《甘味》、などを加えて味が染みるまで煮込む

 さらに、豚肉を羊肉に、しょうゆをクミンに換えてみたら「中東風肉じゃが」ですね。見慣れない食材が出てくるので難しそうに見えるかもしれませんが、しょうゆを使うジャパニーズ肉じゃがよりずっと簡単です。鶏ガラスープが十分に濃く、塩がきちんと決まっていればまずくなりようがありません。

 【肉じゃがの応用レシピ②:中東風肉じゃが】
 1 羊の細切れ肉とにんにくを刻んだものをオリーブオイルで炒める
 2 玉ねぎ、じゃがいもを加えて炒める
 3 鶏がらスープ《うまみ》を注いで煮込む
 4 塩《塩分》とクミン《風味》で味を調える

 味つけは、《うまみ》《塩分》《風味》《甘味》の4つを組み合わせればそれは料理になります。かなり乱暴ですが、決して間違ってはいません。ぜひ、自由に置き換えてみてください(※なお、《甘味》は味つけの基本に出てきていませんが、致命的なものではないので、適当に入れれば大丈夫です)。

 【味つけの応用】
 《うまみ》かつおだし、鶏ガラスープ、干しエビ、昆布、味の素など
 《塩分》塩
 《風味》しょうゆ、みそ、オイスターソース、豆板醤、コチュジャン、ナンプラー、カレー粉、オリーブオイルなど
 《甘味》砂糖、みりん、炒め玉ねぎなど

 じゃがいものようなたいていの味つけとよく合う食材の場合、ほぼすべての組み合わせがおいしく仕上がります。つまり、肉じゃがというひとつの料理をメタ的に理解できれば、韓国風だろうが中華風だろうが中東風だろうがあらゆる味つけの料理がつくれるのです。これが「メタに覚える」ということの強みです。

分量は量るな

 ここまで読んで塩が何グラムであるとかしょうゆを小さじ1といった計量の話が一切出てこなかったことに違和感を持った方もいらっしゃると思います。

 しかし、料理における調味料の量というのは極めて変動的なものです。野菜の大きさも味の濃さもひとつとして同じものはありませんし、肉だってそれこそ豚の一頭一頭の個体差もあれば、部位によっても味は違います。パックの豚肉は常に同じ味ではありません。食材に合わせた微調整は、味見をすればいいだけの話です。

 ・レシピの一問一答をやめ、メタ理解しよう
 ・味つけは《うまみ》《塩分》《風味》《甘味》の4つを覚える
 ・借金玉式自炊には、大さじ小さじは不要

 この3点を、ぜひ覚えておいてください。