クックパッドコーポレートブランディング部本部長の小竹貴子さんが上梓した『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』には、料理が根本から得意になる考え方が書かれています。『発達障害サバイバルガイド』の著者・借金玉さんは、小竹さんの料理にはおいしくなる「しくみ」があるといいます。料理に苦手意識を持っている人が陥りがちな習慣と、料理が上達するコツを語りあってもらいました。(取材・構成/杉本透子)

発達障害の僕が発見した「料理がうまい人、下手な人」をわける意外だけど超重要な「小さな習慣」

クックパッドがなくても、料理ができるようにしたい

小竹貴子(以下、小竹) クックパッドで長く働いていると、ユーザーの方から「クックパッドがないと料理ができません!」と言っていただくことがあります。それはもちろん非常にうれしいことなのですが、料理を楽しみにする会社をつくってきたはずなのに、レシピがないと料理できない方を増やしていることに少し疑問をもつことがありました。

 レシピがなくても自由においしいものをつくる楽しさをどうにか伝えたい、というのが本をつくった目的です。『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』はレシピを見る前にもっと覚えておくといい、たとえば1人分の分量ってどのくらいかとか、火の入れ方加減などが自然と身につくようにつくっています。これを読んでおけば、あとはクックパッドをちらっと見ただけで、いちいち細かく分量など見なくても料理が作れるようになる本を目指してつくりました。

借金玉 僕もレシピサイトを見ますが、細かい調味料の配合は見ないですね。飲食店で料理人をやっていたときも、コース料理のアイデアを出すためだけにザーッとインターネット上のレシピを見たりという感じでした。

小竹 料理ができる方はそうやってうまくレシピサイトを使ってくださっていますね。レシピ通りにできることだけに満足に依存するのではなく、もっと料理を楽しんでいただくためにどうすればいいかというのはいつも考えています。

借金玉 レシピを見て一問一答で作っている状況からグランドセオリーのほうへなんとか一歩引き出したいということなんですね。

小竹 料理って生きて行く上で覚えておかなきゃいけない大事なものだと思うんです。基本的な調理スキルは誰にとっても必要なもので。

借金玉 僕も同じこと思います。レシピを見ずに冷蔵庫にあるもので料理ができるようになったらみんな随分ラクになりますよね。

料理を苦手な人ほど味見をしない!?

小竹 女性が料理が嫌いになる原因って、多くは「家族のため」っていう呪縛なんですよ。

借金玉 そうか、食事が楽しみであるって感覚が消えちゃう人も多いんですね。僕も料理は欲望に忠実に作った方がいいと思います。結局は欲望を満たす行為なので、うまく料理できるとおいしいという回路が結びつくのが大事ですよね。

小竹 子どものため、家族のためというのは美しいんですけど、毎日3食あると疲れてしまいます。それよりも、自分のために自分がおいしいものを3食作る方がストレスなく続くと思います。日々の料理は、本当に楽しくなければ続きません。

借金玉 「料理をおしゃれに見せる」とかも日々の料理が続く要素ですよね、「おしゃれ」ってとても楽しいことですから。反対に、味にかかわらないものは全部削ぎ落とす「本質追求」みたいなアプローチは男性に効果があるんですけど、女性にはそこまで効いていないかもという実感がありまして。お話を伺ってなるほどと思いました。

小竹 借金玉さんは『発達障害サバイバルガイド』で調味料も計らないと書かれていますよね。私は逆に計るところから始めます。

借金玉 計るという作業がどうもできないというのもあるんですけど。調味料ってメーカーによって塩分濃度とかけっこうな個体差があるので、味見して「これくらいだな」っていう感覚を見つけるのが最優先だと思っています。僕は、計るのを「製菓型」、計らないのを「中華型」と呼んでいます。おたまでざっと調味料をかけるから中華型ですよね。計らなくてもいいんですよ、味見さえすれば。……と思っていたのですが、「出来ない」という声をいただくことが最近増えました。

小竹 初心者の方向けの料理教室をしたり、いろんな方の料理する姿を見ていると味見する方が少ないのに驚きます。って本当にいないんです。だから味見のハードルが高い人にとっては、成功するためには計るしかないと思っていて。

借金玉 えっ本当ですか? 味見をしない?

小竹 全部出来上がって食卓に並べて、「あれ? 辛い」とか。レシピに書かれているので、味見せずそのままいっちゃうんです。

借金玉 けっこうなショックを受けています。僕はまず調味料は全部舐めるし、調理中もものすごく味見をします。たとえば炊き込みご飯が難しいのはわかるんですよ。出来上がるまで味がわからないし、味が薄くて後から塩入れると塩が立っちゃうしというので。でもそれ以外で味見をしないとは考えなかったです。

小竹 私もそこの驚きがあったので、まずは「これさえあれば一定の味が作れる」という、掛け算でいうと九九を覚えてもらって、そこが終わってから中級編として味見をして、自分の味を見つけていってもらうイメージです。

借金玉 なるほど、一定のレンジ(範囲)の中に入るように調理する技術なんですね。点で狙うのではなく。

小竹 そういった基本を本の中に入れてるんですけど、基本だけだとつまらないので、見た目のおしゃれさやアレンジなんかを入れて、手に取ってもらえたらいいなと思ってます。そういう意図はありがたいことに伝わったようで、「クックパッドを見ないと料理できない」と言っていた方が「自分なりの味を作れるようになりました」と言ってくださって。本当によかったなと思いました。

発達障害の僕が発見した「料理がうまい人、下手な人」をわける意外だけど超重要な「小さな習慣」小竹貴子(こたけ・たかこ)
クックパッド株式会社Evangelist、コーポレートブランディング部本部長
1972年石川県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオでWEBディレクターを経験後、2004年有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。広告主とユーザーのwin-winを叶えた全く新しいレシピコンテストを生み出す。2006年編集部門長就任、2008年執行役就任。2010年、日経ウーマンオブザイヤー2011受賞。2012年、クックパッド株式会社を退社、独立。2016年4月クックパッドに復職、現在に至る。また個人活動として料理教室なども開催している。シンプルでおいしく、しかも手順がとても簡単なレシピが大人気で、生徒から「料理のハードルが低くなった」「毎日料理が楽しいと感じられるようになるなんて」の声多数。日経BPから上梓した『ちょっとの丸暗記で外食レベルのごはんになる』が現在7刷のロングヒットに。
発達障害の僕が発見した「料理がうまい人、下手な人」をわける意外だけど超重要な「小さな習慣」借金玉(しゃっきんだま)
1985年、北海道生まれ。ADHD(注意欠如・多動症)と診断されコンサータを服用して暮らす発達障害者。二次障害に双極性障害。幼少期から社会適応がまるでできず、小学校、中学校と不登校をくりかえし、高校は落第寸前で卒業。極貧シェアハウス生活を経て、早稲田大学に入学。卒業後、大手金融機関に就職するが、何ひとつ仕事ができず2年で退職。その後、かき集めた出資金を元手に一発逆転を狙って飲食業界で起業、貿易事業等に進出し経営を多角化。一時は従業員が10人ほどまで拡大し波に乗るも、いろいろなつらいことがあって事業破綻。2000万円の借金を抱える。飛び降りるためのビルを探すなどの日々を送ったが、1年かけて「うつの底」からはい出し、非正規雇用の不動産営業マンとして働き始める。現在は、不動産営業とライター・作家業をかけ持ちする。最新刊は『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』