発達障害のひとつであるADHD(注意欠陥・多動症)の当事者である借金玉さん。早稲田大学卒業後、大手金融機関に勤務するものの仕事がまったくできずに退職。その後、“一発逆転”を狙って起業するも失敗して多額の借金を抱え、1ヵ月家から出られない「うつの底」に沈んだ経験をもっています。
近著『発達障害サバイバルガイド──「あたりまえ」がやれない僕らがどうにか生きていくコツ47』では、借金玉さんが幾多の失敗から手に入れた「食っていくための生活術」が紹介されています。
働かなくても生活することはできますが、生活せずに働くことはできません。仕事第一の人にとって見逃されがちですが、生活術は、仕事をするうえでのとても重要な「土台」なのです。
この連載では、本書から「在宅ワーク」「休息法」「お金の使い方」「食事」「うつとの向き合い方」まで「ラクになった!」「自分の悩みが解像度高く言語化された!」と話題のライフハックと、その背景にある思想に迫ります(イラスト:伊藤ハムスター)。

発達障害の僕が発見した「料理が苦手な人」が毎日やらかしている小さいけど致命的なミス

肉じゃががまずくなる理由は「しょうゆ」にあり

 肉じゃが、上手につくれますか?

 これはあまり知られていないことですが、「肉じゃが」というのは家庭料理の中でもかなり難しいほうにランクインします。先だって説明した味つけの基本がわかっていない人が肉じゃがをつくると、たいていは大惨事になります。

 じゃがいもはドロドロに溶けて半ば液状化、味はなんだかぼんやりとして捉えどころがない、あるいはしょうゆの味しかしない。平たくいっておいしくない。そんな肉じゃがをつくってしまった人は少なくないでしょう。

 でも大丈夫。本書を読めばあなたはすでに、味つけの基本をマスターしています。そう、うまみを濃くして塩を適量加えればいいのです。それですべてはおいしくなる。基本は何ひとつ変わりません。

 では、十分なうまみの濃度があるにもかかわらず肉じゃがの味つけがまずくなる原因とは何か。それは「しょうゆ」にあります。

 しょうゆというのは非常においしい調味料ですし、和食ではとにかくよく使われます。ただ、実は「おいしすぎる」調味料でもあるのです。しょうゆを入れすぎた料理はすべてしょうゆの味しかしなくなるということです。

 たとえば想像してみてください。洋食屋さんであなたはオニオンスープを頼みました。しっかりと材料のうまみが出た透明なスープに甘く煮えた玉ねぎが浮かんでいます。ここにしょうゆをひとさじ入れたらどうなるか。台無しですね。

なぜ、「台無し」になったのか?

「十分なうまみ+適切な塩=おいしい」。この「味つけ」の大原則に加えて覚えておくといいのが「風味」という概念です。

 料理というのはさまざまな素材や調味料の風味がバランスよく組み合わさっています。肉じゃがは、いもの土の香り、にんじんや玉ねぎの甘さ、だしのうまみ……これらが非常に淡いところで溶け合っている繊細な組み立ての料理です。ここに、しょうゆを入れすぎることで、一発で致死水準に達してしまう。

 しょうゆは「塩味をつける」ものではなく「風味をつける」ものなのです。ほんの少し加えてしょうゆの風味を与え、あとは塩で味の最終調整をする(料理人の専門用語では「塩を決める」といいます)のが、正しい使い方です。

 調味料は風味をつけるもの。入れすぎてはいけない。これが正解です。

 ちなみに「カレールー」や「みそ」は風味がとても強く、「ほんの少しでも入れたらその味にすべてを支配される」核爆弾のような存在です。カレー味、みそ味はそれなりにおいしいので、初心者にはラクなのですが(カレーライスは肉じゃがよりも圧倒的に成功しやすいですよね)、これしかできないと、つくれる料理が圧倒的に少なくなりますし、何をつくっても同じ味になるのでいずれは飽きます。やはり、自分で味を調整するやり方を覚えたほうがいいと僕は思います。

 ・しょうゆを入れすぎると料理はまずくなる
 ・調味料は「塩味をつける」ものではなく「風味をつける」もの

 この2点を、ぜひ覚えておいてください。