圧倒的な流通量を誇る米国の中古住宅市場。それを支えているのが、スピーディで透明性のある取引を可能にする、MLSという不動産情報システムだ。いったいどのようなシステムなのか、米国の不動産市場はどこまで進んでいるのか。オウチーノの井端純一社長が、全米リアルター協会の日本大使を務めるジェイスン渡部氏に聞いた。

IT化で一気に加速した
米国の不動産市場改革

井端氏と渡部氏ジェイスン渡部氏・全米リアルター協会 日本大使(写真左)と井端純一氏・オウチーノ代表取締役社長(写真右)

井端 今、米国の住宅・不動産市場で中古住宅の比率はどれくらいですか。

渡部 8割以上です。新築物件は都市計画に基づいて供給量がコントロールされています。それに何より、中古住宅は新築に比べ約3割安いのが魅力です。

井端 米国は、ライフステージに合わせて多くの人が5~6回住宅を買い替えますね。中古住宅の流通量が圧倒的に違う。それを支えているのが、利便性の高い流通システムです。

 特に米国にはMLS(次ページのコラム参照)というデータベースシステムがあり、不動産業者が情報を共有して、一般公開している。こうしたシステム構築の背景には何があったのでしょう。

渡部 米国では不動産取引が重要な経済エンジンとなっています。そのきっかけは1930年代の世界恐慌後、ルーズベルト大統領が国民の住宅購入支援のために、住宅ローン債権を証券化して自由に売買できるシステムをつくったことでした。これにより世界中からお金が集まるようになった。経済が動き、消費者の住宅購買意欲も高まった。そこで必要になったのが、株取引と同様、情報の即時性、取引の公正さなど、透明で効率的な流通システムでした。

 その理念を具現化したのが70年代に本格始動したMLSです。当初は紙媒体を使ったシステムでしたが、90年代からIT化され、今では誰もが、現時点で売りに出ているほぼすべての物件情報をインターネットで閲覧することができます。

井端 70年代以前は、米国も日本と同じような状況─つまり、各不動産業者が物件情報を握っていて、買い手を自分で見つければ、売買双方の手数料が得られる、だからできるだけ情報を囲い込むという、閉鎖的な市場でした。それが劇的に変化してきた要因は何でしょうか。

渡部 米国でも当初は反対の声がありました。特に物件情報が豊富な大手不動産業者が抵抗したと聞いています。しかし、どんなに多くの物件情報を持っていても、買い手が見つからなければ利益は得られない。1軒の家を売るのに何ヵ月もかけていたら、結局、経営コストに跳ね返ってくる。それよりお互いの物件情報を共有して公開し、取引回数とスピードを上げたほうが、メリットが大きいとわかってきたのです。