公平な取引のためには
罰則規定もある

ロックボックス 売り出し中の中古物件に付けられるロックボックス。売り手が不在でも、不動産業者は、電話連絡の上に、各会員が持つ暗証番号で鍵を開けて、建物内に顧客を案内できる。どの不動産業者が、いつ鍵を開け閉めしたかの情報は、ロックボックス内に蓄積され、売り主が確認できる仕組み。このシステムの導入が、不動産取引のスピードアップに結びついた。

井端 さらにIT化があります。

渡部 ええ。IT化がものすごいスピードで広まっていくのを目にしたときに、不動産関係者の多くが、ここは腹を決めて情報を公開しなくてはいけないと考えました。止められない流れならば先手を取って流れに乗り、自社がリーダー格をキープできるようにしたほうが利益につながると考えたのです。また、自社が情報公開を拒んだことがわかったら、後世の消費者にどう映るか、ということも意識したはずです。

井端 なぜ今回、米国不動産市場とMLSのお話を詳しく聞くかというと、日本にもREINS(不動産流通機構)という不動産情報ネットワークがありますが、米国とは成り立ちが違うだけでなく、機能も異なります。もちろん、米国と日本では不動産取引のスタイルも違うのですが、情報ネットワークの仕組みは米国のいいところを取り入れることが可能なはず。情報公開とスピード化の流れは消費者に大きなメリットをもたらし、市場を活性化させるはずです。

渡部 私たちはMLSを発展させる過程で、不公平にならないよう運用ルールを設け、地域ごとに評議会をつくりました。物件情報は入手したら24時間以内にMLSに登録しなくてはいけないし、登録後48時間以内に、その物件にロックボックス(情報履歴が記録でき、ドアを開閉する鍵)を取り付けなくてはいけない。こうしたルールが細かく決まっていて、破ると、罰金や退会といった罰則も定められています。

井端 ロックボックスは、評議会に参加している不動産業者なら、誰でも開けることができる。オーナーが留守の居住住宅も見学できて、実に合理的です。

渡部 見学に行ったのにロックボックスがなかったら、業者は罰金4万円です。仲介手数料を勝手に下げるのは認められません。情報が公平なら競争も公平であることが大前提。罰則は公正な競争のためにあります。

井端 MLSには契約書のデータベースもありますね。

Column
MLS(マルチプル・リスティング・サービス)とは?

全米のほとんどの不動産業者が加入しているデータベースシステム。それぞれの物件情報をMLSで共有し、広く一般に公開して買い手を探す。公開データには物件の価格や広さはもちろん、修繕履歴や売買履歴、登記の状況など、すべての売り情報が含まれている。売り手は適正な売却価格がつかめ、買い手は周辺物件と比較検討して、価格の妥当性を判断できるなど、不動産取引の透明性と利便性を飛躍的に高めた。