脱炭素の加速で鉱物資源の需給バランスが
大きく変わる可能性

 長期的な見通しでは、中国の需要減速が予想される。その一方で、2018年から人口ボーナス期入りしているインドが、次の世界経済のけん引役として期待されている。

 為政者の政策にミスがなければ、インドでは近代化目的のインフラ投資が行われるために、鉱物資源の需要は増加するとみられる。この場合、橋梁や電線網、ガス水道の整備で鉄筋や亜鉛、アルミ、銅などの需要が増加する。

 弊社は、この人口動態に依拠した構造的な需要増加が見込まれるため20年頃からの金属価格上昇を兼ねてから予想してきた。

 ところが、ここに来て急に「脱炭素」の動きが加速しており、鉱物資源の需給バランスを大きく変える可能性が出てきた。

 欧州主導で始まった脱炭素の動きは、環境規制強化を訴える米バイデン政権の誕生で大きなうねりとなっている。この動きが今後も続くかどうかは不透明だが、脱炭素を契機に今まで社会インフラ投資に後ろ向きだった欧米が、積極対応に方向転換したことは間違いない。

 バイデン大統領は5年で1兆ドルに及ぶインフラ投資計画を推進する方針だ。道路や橋梁向けに1100億ドル、電力網に730億ドル、鉄道整備に660億ドル、高速通信網整備に650億ドル、水道網に600億ドルが投じられる計画だ。全てが金属資源の需要ではないが、電線向けには銅やアルミが、橋梁整備には鉄鋼製品と防食剤として亜鉛、ビルなどの構造物建築にはアルミの需要が増加するとみられる。

 また、増税を軸に再生可能エネルギーへの投資も促進する見通しで、バッテリー向けのニッケル、コバルト、リチウム、太陽光発電向けの銀、燃料電池車や水素の利用が進めばプラチナなどの需要も増えることが予想される。このほか、IT化が強化されればエレクトロニクス向けの接点部品として金や銀、スズ、電化製品向けの銅などの需要増加が見込まれる。

 これらの需要の総量が、中国の鉱物資源への需要を上回ることにはならない。ただし、これまで増加することがなかった先進国・地域で新たに需要が創出されるため、欧米の投資動向は、鉱物資源価格への影響を与えることが予想される。そして欧米での投資は、今後10年のうちに行われる計画だ。

 つまり、中国の構造的な成長減速が見込まれる30年までに行われるということであり、この10年、鉱物資源の戦略的な重要性が高まることになる。

 これまでエネルギー資源の確保のために、中東・北アフリカの重要性は高かった。今後は、鉱物資源を多数有する振興地域であるアフリカが戦略的に重要な地域となりそうだ。もっとも、鉱物資源の需要が高まったとしても、化石燃料の需要が急にゼロになることはない。

 国際エネルギー機関(IEA)は、脱炭素に楽観的なシナリオでも、新興国向けと石油化学製品向けの化石燃料の需要は増加し、OPEC(石油輸出国機構)のシェアが6割を超えると予想している。

 脱炭素が進む中では、原油価格も上昇する可能性が高い。なぜなら、産油国は、原油の販売量が減るならば、当然価格を引き上げると予想されるためだ。OPECのシェアが大きければ、原油価格が上昇する可能性はなおさらである。

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資源ナショナリズムの台頭でさらに価格上昇も

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