資源ナショナリズムの台頭で
さらに価格上昇の恐れも

 鉱物資源の需要が高まるにつれて、資源国側の動きにも変化が出てきた。

 これまでも需要が増加して価格が上昇する局面では、資源国側の発言権が強まって、いわゆる「資源ナショナリズム」が台頭することがしばしばあった。この10年を振り返ってみても、インドネシアやフィリピンなどでは、自国に処理工場を設置しない企業については、資源の国外持ち出しを認めないなどの規制が行われてきた。

 この1年で注目されたのは、世界最大の銅生産国であるチリだ。

 チリでは銅鉱山に対するロイヤルティー・フィー(権益)を大幅に引き上げる「新鉱業ロイヤルティ法案」を上院鉱業エネルギー委員会が可決、施行に向けて調整中と報じられている。

 これによりチリの鉱山からの収入は増えるが、生産者ならびに消費者は増税分がコストアップとなる。チリ政府が、今後の銅需要増加を見越して、仮に課税強化があっても需要は減らないと踏んだ強気な動きだ。

 また、脱炭素の鍵となる資源として注目されるコバルトの最大生産国コンゴ民主共和国は、国有企業と中国企業グループとのジョイントベンチャーに関し、公正と効率の観点から契約を見直すとしている。

 この契約には、中国側がインフラ投資を終了した後に取得できるコバルト・銅鉱山の権益68%の見直しも含まれている。そもそも中国のインフラ整備が進んでいなかったと報じられており、それに伴う見直しとされているが、立場が変わったことによる契約の巻き戻しで、これもある意味資源ナショナリズムといえるだろう。

 チリやコンゴのように、鉱物資源を有する資源国全体で「資源ナショナリズム」が強まることが予想され、鉱物資源の需給が逼迫(ひっぱく)する可能性がある。

 需要が増加すれば、これまで生産しても採算が取れなかったために開発しなかった深部鉱床の開発が進むことも予想される。深部鉱床の開発により生産コストが上昇することになるため、需給以外の要因で生産コストが押し上げられ、さらに鉱物資源の価格が上昇することもありえる。

 そのほか、脱炭素を達成するためにクリーンエネルギーに投資したり、「排出権」を購入したりして実質的にカーボン・ゼロを達成しようとする国や企業も出てくるだろう。

 そのコストも販売される金属価格に付加され、価格の上昇要因となる。ようやくこのとき初めて、消費者が脱炭素に絡むコスト負担の大きさに気づくことになる。

 問題は脱炭素に伴うコスト上昇に、最終消費者が耐えられなかった場合だ。環境問題は、他人事であり誰かが代わりにやってくれるものと捉える人が多いのは事実だ。

 炭素税や販売価格の引き上げといった形で、脱炭素のコストを消費者が負担する形になった場合、「そこまでのコストをかけてやるべきことなのか?」という反論が出てくることになる。

 そしてもし仮に、「脱炭素はやり過ぎだった」となった場合、あらゆる動きが逆回転する可能性が出てくる。脱炭素ブームとなっている昨今のように、ほとんど全ての人やメディアが脱炭素で一致している時こそ、そのリスクが大きいと考えるべきである。

(マーケット・リスク・アドバイザリー代表 新村直弘)

【訂正】記事初出時より以下の通り訂正します。
1ページ目図表の軸ラベルを修正:左軸のラベル「労働人口:千人」→「実質GDP成長率(%)」、右軸のラベルに「人口ボーナス指数」を加筆
(2021年9月9日10:58 ダイヤモンド編集部)
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