商社非常事態宣言#4Photo by Toshiaki Usami

鉄鉱石価格高騰の追い風を受け、業界2位に位置する三井物産(2021年3月期純利益3355億円)。“資源商社”の面目躍如の形だが、4月に着任した堀健一社長は、資源に頼らないビジネスモデルの構築を掲げる。特集『商社 非常事態宣言』(全15回)の#4では、堀社長にその真意を聞いた。(ダイヤモンド編集部 重石岳史、田上貴大)

前期決算で三菱商事を抜き業界2位に躍進
堀健一新社長が掲げる「脱資源」への思い

――2021年3月期決算は、鉄鉱石価格の高騰もあって資源の利益が目立っています。安永竜夫前社長(現会長)の時代から非資源の強化に取り組んできましたが、資源に収益を依存した「元のもくあみ」とならないでしょうか。

 機械やインフラ、化学品、それから(人々の生活に欠かせない)エッセンシャルの事業は回復し、今期も右肩上がりで伸びている。現在の中期経営計画で目指すところに沿って、インラインで動いているので、引き続き力を入れたい。

 資源については、われわれが価格をコントロールしているわけではないが、中国がコロナ後に回復を見せており、鉄鉱石事業を通して中国の成長を利益に取り込んでいる。

 それに日頃から、鉄鉱石をはじめとするうちの資源事業のコストを下げ、損益分岐点を下げてきた。マクロ要因で市況の上がり下がりはあるだろうが、単年度で見るよりも、複数年度で得た利益の面積を評価してもらうのがいいだろう。

――鉄鉱石価格の見通しは。

 1トン当たり200ドルを超えた鉄鉱石の価格は、歴史的に見るとノーマルのレンジを超えている。今は中国の需要が非常に旺盛であり、しばらく堅調に推移すると思っているが、中期的にはもう少しノーマルな範囲を想定した方がいい。だからこそ、23年3月期の金属資源の利益予想は抑え気味にしている。

――非資源も右肩上がりということですが、具体的な成果や取り組み状況を教えてください。

 例えば機械だと、米国の自動車関連の復調が早かったのでモビリティ分野が堅調だ。ペントアップデマンド(繰り越し需要)という言葉があるが、コロナの間に購買欲がたまった状態から、活動が復活してくると、皆さん自動車を購入している。

 それから、素材の分野は市場が堅調だ。化学品が今、底堅い回復を見せている。また、エッセンシャルの一部はまだ回復が遅いものの、そのうちのヘルスケアに関しては、前年度の前半はうちのアジアの病院事業もコロナ優先のオペレーションになっていたが、後半からノーマルに戻ってきた。付加価値の高い病院の活動が復活してきている。

――コロナ禍は、ヘルスケアの利益をどれくらい圧迫しているのでしょうか。

 普通ならば大きな収入になる医療的な措置を先伸ばしし、まずコロナ感染者の対応を優先している。これは仕方がないことだが、ヘルスケア産業にとって、コロナはストレスがかかる要因だ。

 ただ、大きな変化が起きている。医者にしてみると、自宅にいる人たちが自分の患者になったことだ。

 自宅での予防や未病もお金になり、加えて遠隔診療の精度もデジタルで向上し、収入を得られるようになった。うちのアジアの病院では、患者の自宅に薬を届けることまでサービスに入れている。

 誰もがなるべく自分の家で健康を保ちたい。その中で、科学的なエビデンスのある予防をしたいし、万が一病気になっても、高度な医療を受けるときには病院に行く。こうして、医療の現場が病院プラス自宅になった。これはものすごい広がりだ。

 こうした広がりを見越して、アジアのヘルスケアデータを集めて整理し、世の役に立つ事業にすることを進めている。ここの仕込みは今、相当力を入れているところだ。

――ヘルスケアも、三井物産にとって注力分野の一つになると。

 そうだ。長期的な視点もあるが、足元の利益ももう少し高いレベルで出していきたい。

 分野のくくりに対して、皆さんは「非資源」という言葉を使うが、私はそれぞれの産業名をそのままズバリ言いたい。機械や化学品、ヘルスケアなどはそれぞれが世界的な一大産業だ。それを非資源にひとくくりにしてしまうと、ミスリーディングになると思う。

――その考えを具体的に聞かせてください。