海外に比べて周回遅れといわれる日本のデジタル変革は、圧倒的な人財不足が大きな原因の一つとされている。国際競争力を取り戻すためにスマートインダストリーへの転換が急務とされる中、その担い手となるデジタル人財を企業はいかに集め、育てるべきか。人財サービス大手、アデコの代表取締役社長で、同社グループのIT・エンジニアリング系人財サービス会社、VSNの代表取締役社長を兼任する川崎健一郎氏に聞いた。
人財不足が、日本のデジタル化を阻む大きな要因に
編集部(以下青文字): 産業やサービスのデジタル化は、コロナ禍によって一気に加速したといわれています。アデコグループは「Modis」(モディス)および「Modis VSN」(モディス・ブイエスエヌ)というブランドでIT・エンジニアリング系プロフェッショナルサービスをグローバルに展開していますが、世界におけるデジタル化の動きをどのように見ていますか。
川崎(以下略):テック領域について言うと、Modisブランドは世界約20カ国でプロフェッショナルサービスを展開していますが、どの国においてもデジタル化は急速に進んでおり、日本と同様に人財不足が深刻化しています。
特に近年は、AIやIoTを活用した「Smart Industry」(スマートインダストリー)と呼ばれる領域の成長が著しく、その担い手をいかに確保するかが課題となっています。
世界のデジタルエンジニアリングの領域は2020年までの5年間、年平均40%以上成長しており、たとえばビジネスシーンにおけるAIの活用率は2025年までに95%、新たに生み出されるAI関連の就業機会は25年までに1億件以上に上ると見られています。こうした急速な発展に、人財供給が追い付いていないのが実情です。
しかも、スマートインダストリーへの転換は、コロナ禍によって一気に勢いを増しています。その担い手を確保するためには、これから社会に出る人財にデジタルを学んでもらうだけでなく、すでに社会で活躍している人財をアップスキリング、リスキリングしていく必要があります。これは日本だけでなく、世界的なトレンドです。
そうした中、海外に比べてデジタル化が周回遅れといわれている日本は、人財獲得面でなおさら苦戦を余儀なくされているのではないでしょうか。
現在、日本では約100万人のIT人財が活躍しているといわれています。これは、いわゆるデジタル人財だけでなく、レガシーな領域のシステムエンジニアも含む数字です。
政府は、デジタル変革を進めるためには、2030年までに150万人程度のデジタル人財が必要だとしています。単純計算でも50万人足りませんし、いま活躍している人財をAIやクラウドなどに対応するデジタル人財にリスキリングしなければならないとなると、相当高いハードルです。
日本ではデジタル人財が慢性的に不足しており、IT・デジタル関連の求人倍率は7倍前後で高止まりしています。この担い手不足も、日本のデジタル化が進まない大きな原因の一つだと言えます。
IT・デジタル人財に関して、なぜそれだけの需給ギャップが生じているのでしょうか。
日本のITエンジニアの7割近くは、システム開発会社などのいわゆるITベンダーやコンサルティングファームに勤務しており、ユーザー企業が自前で雇っているIT人財は3割程度にすぎません。
DXは、ビジネスモデルや経営そのもののあり方を変革する取り組みなので、その担い手はIT・デジタル技術だけでなく、業務やサービスの知識も兼ね備える必要があります。
ところが、日本のエンジニアの大半は、ユーザー企業から依頼を受けてシステムを開発する側にいるので、事業や業務のドメイン知識が十分に得られません。たとえデジタル技術を学んだとしても、それを活かせないというジレンマに陥っているのです。
企業が自社の将来のため、自前でデジタル人財を積極的に採用・育成する動きが起きないと、慢性的なデジタル人財不足の解消には結び付かないでしょう。