三幸東北大学

高コストの貴金属坩堝を使わない
結晶作製装置を開発中

 三幸と東北大学発のベンチャー企業「C&A」がコラボレーションして、17年に設立されたのが「EXA(エクサ)」(宮城県仙台市)。ここでは、東北大学の結晶育成の技術と三幸の装置製造の技術が融合し、新たな結晶育成装置の開発が行われている。

半導体市場で顧客ニーズに柔軟に対応。新素材の分野へも積極的に進出する貴金属の坩堝を使わない、EXAの「高周波誘導加熱方式スカルメルト炉」の2号機。写真右からC&A吉川彰代表取締役、EXA庄子育宏CEO、同社佐藤浩樹取締役、三幸奥野敦社長

 同社の研究室で開発中の装置は、「高周波誘導加熱方式スカルメルト炉」。通常の炉と違うのは、コストの高い貴金属の坩堝を使わない装置であることだ。

 C&Aの代表取締役で、EXAの取締役として研究開発にも携わる、東北大学金属材料研究所先端結晶工学研究部門の吉川彰教授は、「通常の炉では、単結晶を育成するために、融点の高いイリジウムという貴金属を使った坩堝を誘導加熱して材料を間接的に溶かします。問題はイリジウムの酸化と、値段が今世界的に高騰していること。高品質単結晶の製造コストを下げるためには、イリジウム坩堝を使わない炉が必要で、私たちはその炉の開発を行っているのです」と語る。

 EXAの炉では、従来より数桁高い周波数の磁場によって、酸化物原料融液を直接加熱・溶融する。原料の中心部は加熱で溶融するが、周囲を冷却することで溶融原料の外側は焼結される。つまり原料そのものが容器の役目を果たして、単結晶を育成するのだ。

 イリジウムの坩堝を使わないことで、製造設備の価格が安くなり、単結晶の製造コストは低減する。EXAの庄子育宏代表取締役は、「イリジウムが結晶育成に耐えられる温度は2200度程度で、これまで融点がそれ以上の材料は使えないという制限がありました。当社の装置を使えば、イリジウム坩堝の物性に縛られない育成環境を作り出すことができるため、より多様な材料を使って単結晶を育成することが可能になります」と、装置のさらなるメリットを語る。

 この装置を使うと、どのような単結晶を育成できるのか。例えば、放射線を受けると発光するシンチレータという物質の単結晶を作れる。シンチレータは、医療用画像診断装置や空港の手荷物検査装置のセンサー部分に用いられる物質で、用途は幅広い。もう一つは、次世代パワー半導体の素材として期待されている「酸化ガリウム」の単結晶だ。酸化ガリウムは高温で酸素とガリウムに分解しやすいという難点があるが、酸化しやすいイリジウムを使わないEXAの装置を使えば、チャンバー内に酸素を充填して酸化ガリウムを分解しにくくすることができる。

 三幸とEXAで装置の開発を担当する佐藤浩樹取締役は、「まだ装置は開発途中ですが、より開発を加速して、世界が次世代パワー半導体へ本格的に移行するときに、当社の装置が結晶メーカーに必需品として選ばれるようになりたい」と、その可能性に期待する。