三幸名古屋大学

新素材で深刻化する
電子機器の熱問題を解決する

半導体市場で顧客ニーズに柔軟に対応。新素材の分野へも積極的に進出するファイバー状の窒化アルミニウム単結晶「サーマルナイト」を生産する、U-MAPの「高温抵抗加熱合成炉」。右から三幸奥野社長、U-MAP前田孝浩COO、U-MAP西谷健治CEO

 愛知県名古屋市にある「U-MAP」は、16年に三幸と名古屋大学のコラボレーションで誕生したベンチャー企業。名古屋大学の未来材料・システム研究所の宇治原徹教授(U-MAPCTO)が特許を持つ、繊維状窒化アルミニウム単結晶の合成技術を使い、電子機器の熱問題を解決しようと取り組んでいる。

 同社の西谷健治CEOは、「今モバイルデバイスの普及やモビリティーの電動化が進んでいますが、それに伴って電子機器の放熱問題が深刻化しています。電子機器にとって発熱は大敵で、パフォーマンスや機器寿命、安全性の低下につながります。またデータセンターの冷却設備も大型化し、全世界の消費電力に大きな影響を与えています。この問題を解決するには、機器部材を高熱伝導化し、素材自体の力で効率的に放熱を行う必要があります」と説明する。

 同社が開発した「Thermalnite(サーマルナイト)」は、ファイバー状の窒化アルミニウム単結晶で、高い熱伝導率と絶縁性を併せ持つ、世界に類を見ない新素材である。

 もともと窒化アルミには、電気は流さないが熱をよく通すという特性がある。電子機器に使われる樹脂は、電気をシールドして絶縁する必要があるが、熱を通さないので中に熱がこもってしまう。そこに窒化アルミを充填した樹脂を使えば、素材自体での放熱が可能になるのだ。

「ただし、従来の粒状の窒化アルミは、高い熱伝導性を発揮するために樹脂の中に80%以上充填しなければならず、材料が加工しづらく、重くなる欠点がありました。当社のサーマルナイトはファイバー状で、効率的な放熱のネットワークができるため、10~20%の充填量で絶縁性を担保しつつ、高い熱伝導性を発揮できるのです」(西谷CEO)

 スマートフォンに使えば機器はより軽くなり、電池も長持ちするようになる。電気自動車のインバーターに使用すれば、大きな放熱ファンが不要となり、車体を軽くできる。

半導体市場で顧客ニーズに柔軟に対応。新素材の分野へも積極的に進出する窒化アルミニウム単結晶の「サーマルナイト」はファイバー状。見た目は綿のようだ

 同社には当初より企業からの問い合わせが多く、すでに岡本硝子(千葉県柏市)と連携し、サーマルナイトを用いたセラミックスシートの量産体制の構築がスタートしている。

 三幸の取締役でU-MAPの前田孝浩COOは、「素材開発は時間がかるといわれていますが、設立5年弱でここまで来られたのは、サーマルナイトが持つポテンシャルが高かったから。三幸では、このサーマルナイトを製造する高温抵抗加熱合成炉を開発、現在は反応効率を上げ、生産量を増やす改良を行っています。今後は、ユーザーとなりそうなさまざまな企業とアライアンスを組み、アプリケーション開発を積極的に推進していきたいと考えています」と抱負を語る。

 仙台と名古屋の地で、最先端の技術を導入しながら新たな素材開発に力を入れる三幸。事業展開の根底にあるのは、ステークホルダーと信頼関係を築き、その満足度を高めることだ。

 創業3代目として三幸を率いる奥野社長は、「こうした素材開発も強みとして、ステークホルダーの声に耳を傾け、新しいアイデアを設計に盛り込んだ製品を自らの手でカタチにしながら、日本のモノづくりに貢献していきたい」と、力強く未来を見据えている。

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