――そうしたリスクを乗り越えていくためには、どのような取り組みが必要でしょうか。
西村 一言で言えば、物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていくことに尽きるでしょう。デジタル化やロボット・AIなどの先端技術を取り込むことで、物流の自動化・省人化や生産性向上を加速させていく必要があります。ドライバー不足を例に取ると、「2024年問題」でより多くのドライバーが必要になりますが、その一方で、現状における日本のトラック平均積載率は4割程度にとどまっています。デジタル技術を駆使することで、トラックと荷物のマッチングを促し、オールジャパンで積載率を高めていくことは解決策の一つです。
その中で今、「フィジカルインターネット(PI)」という概念が注目されています。インターネットのパケット交換の仕組みを物流に適用することからそう呼ばれていますが、輸送や保管スペースをシェアリングすることで物流リソースの稼働率を向上させ、持続可能な物流を実現しようというコンセプトです。経済産業省や国土交通省では、40年のPI実現を目指して検討を進めています。
ハード、ソフト両面の「標準化」が欠かせない
――PIが実現すれば、より少ないリソースで持続可能な物流が構築できるということでしょうか。
西村 理論的にはそうですが、実現には多くのハードルがあります。その最たるものが「標準化」です。PIは輸送や保管といったリソースをシェアリングすることが前提となりますが、そのシェアリングの動きを加速させていくためにはハード、ソフト両面における標準化が欠かせません。しかし、現状では荷物を積載するパレット一つとってもさまざまなサイズが混在しており、シェアリングや共同化を阻む要因になっています。業種・業界ごとに存在する商習慣もシェアリングの足かせになっています。
先日公表されたPI実現に向けた工程表の中で、現状は「物流コストインフレ」が進んでおり、物流を取り巻く構造問題が放置されれば、30年時点で7.5兆~10.2兆円の経済損失が発生するとの懸念が示されています。
――ドライバー不足などによって需給バランスが崩れ、「物流コストインフレ」が進むということでしょうか。
西村 そうです。ただ、私自身は「物流コストインフレ」という言葉の是非はさておいて、一定程度の物流コストの上昇はやむを得ないと考えています。今、自動化やデジタル化への投資が進んでいますが、それによって物流DXが実現し、真の意味でメリットを享受できるのは早くても30年以降だと思います。それまでの期間は、ドライバーを確保するための待遇改善や環境対策など、コストがどうしても先行します。つまり、今後数年間は物流コストが上昇することは避けられないわけです。物流事業者にとっては、“インフレ”ではなく、安過ぎた運賃・料金を見直す”適正化”だと主張するはずです。
現在、物流の持続可能性に黄信号が点滅している背景には、荷主企業が長年「効率化」の名目の下で物流コストの削減を続けてきたことがあります。少し厳しい言い方かもしれませんが、物流の持続可能性を確保するために、これまでの〝ツケ〟を払う時期に来ているともいえるのではないでしょうか。
「カーゴニュース」
1969年10月の創刊から50年超にわたり「経済の中の物流」という視点から一貫した報道を行っている物流業界専門紙。物流報道の中に"荷主"という切り口を持った媒体として評価されている。主な内容は荷主企業の物流動向、行政の物流関連動向、トラック、倉庫、鉄道、海運、航空など物流企業の最新動向、物流機器、WMSソフトなどの関連ニュースなど。週2回発行。