CSA賞の審査項目は大きく三つある。一つ目は「人財輩出性」。若手を「どこでも活躍できる人材」に育成するために必要な四つの環境があることを求めている。その四つの環境とは、①社内外の競争が激しく、成長基調で活気があること。②20代からチャレンジングで困難な非定型業務を求められること。③性別、国籍、学歴、在籍年数にかかわらず、正当に評価される実力主義であること。④本業の商品・サービスで自社独自の主観正義性を実感できること。二つ目が「本業主観正義性」。これは、社会や業界に対して自社なりの問題意識を持ち、本業の商品やサービスでその問題を解決しようとしていること。そして三つ目が「収益性」。成長基調の売上高と、業界平均以上の売上高営業利益率を実現していること、である。
応募企業に対しては、財務情報などの審査から、人事・経営層向けのヒアリングシートや社員向けのサーベイ、経営層・人事・社員へのインタビューを経て、審査が行われる。審査員は、越智理事長と、一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻客員教授の名和高司氏、シブサワ・アンド・カンパニー代表取締役の渋澤健氏、国際社会経済研究所理事長の藤沢久美氏の4人である。
2021年度(第2回)は、こうした審査を経て、丸井グループ、ユニ・チャーム、TBMの3社が選出された。丸井グループ、ユニ・チャームは高い収益性を維持し、スタートアップのTBMは現在赤字だが、将来の高い収益性を期待されている。3社ともに本業で社会課題に挑み、社員が若いうちから鍛えられる環境を整えている企業だ。
「優しさ競争」の中で
果たして人は育つのか
越智理事長は、「各企業とも若手の人材が育つ環境をつくっています。それは決して甘い環境ではないが、社員が前向きに仕事に取り組んでいるのです」と語る。
越智通勝理事長
(エン・ジャパン 取締役会長)
日本では近年、ワーク・ライフ・バランスの掛け声の下、労働時間の削減が注目されてきた。「もっと休もう」「早く帰ろう」という「優しさ競争」の中で、果たして人は育つのか? これで企業は生き残っていけるのか? 越智理事長は危惧を抱いている。「優しさだけでなく、厳しく鍛えることも必要だと思います。鍛えるとは、大声で叱ることでも、長時間労働を強いることでもありません。20代という若さに期待を込めて、少し高い要望を出し続け、チャレンジングな仕事を与えること。それによって、自分の頭で考え、自ら行動し、革新を生み出す若者へと成長していくのです。今回の受賞企業は、優しさ競争に陥ることなく、より望ましい環境をつくっていると思います」。
エン人材教育財団では、働く人が目指すべきものとして「I&W仕事価値観」を提唱している。I&Wとは、インナーコーリング(InnerCalling)とワークハード(WorkHard)の頭文字。
インナーコーリングとは、人間なら誰もが持っている自らの利他性を内面から引き出し、他人のため社会のためを考えて仕事をするという価値観のこと。ワークハードとは、主体的に懸命に仕事をするという意味で、ハードワーク(きつい仕事)とは一線を画す価値観だ。同財団では、これからの時代に向け、この「I&W仕事価値観」を持ち、実践する人材の輩出を目指している。
「CSA賞に選ばれた企業は、厳正な審査を基に評価した企業です。今後はCSA賞の認知度がもっと上がり、受賞企業が就職や転職に向かう若者たちの憧れの企業になってほしいと考えています」と、越智理事長は期待を込めて語る。