メイヤー ありがとうございます。私はパリ郊外にあるINSEADでビジネススクールの学生やエグゼクティブ教育プログラムに参加する企業幹部を教えているので、ふだんはパリにいるのですが、今日は私の故郷である米国のミネソタ州から、オンラインでこの対談に参加しています。私は組織行動分野の教授であり、異文化マネジメントと多文化社会におけるリーダーシップを専門としています。御社のようなグローバル企業に私の研究成果を役立てていただくことを、とても嬉しく思います。
アビームコンサルティング代表取締役社長
セイコーエプソン、プライスウォーターハウスクーパース、日本IBM常務執行役員、マーサージャパン代表取締役社長兼Mercer Far East Leaderなどを経て、2020年4月より現職。20年以上にわたり国内外のグローバル企業のコンサルティングに従事。
鴨居 最初に伺いたいのですが、メイヤー教授が異文化マネジメントの研究に取り組むことになったきっかけはあったのでしょうか。
メイヤー 学生の頃から異文化に興味を持っていた私は大学卒業後、米国政府が運営するボランティア組織「平和部隊」に入り、アフリカ南部のスワジランド(現エスワティニ)に教師として派遣されました。学校で子どもたちを教えるようになってすぐ、教室の運営方法や教師と生徒の関係が、米国とスワジランドではまったく違うことに私は驚かされました。
スワジランドでは家庭内での序列がはっきりしていて、教室においても教師は生徒に対してとても厳格です。私は生徒たちとフラットな関係を築き、米国流の教室運営をしようとしましたが、うまくいきませんでした。自分の文化圏でうまくいっているやり方が、他の文化圏でも通用するとは限らないことをそこで学びました。それが私の研究者としての出発点です。
3年間の任期を終えて帰国した後も、世界のさまざまな地域の人たちにとってのモチベーションは何なのか、人々はどのようなフィードバックを求めており、どんなスタイルのリーダーシップが有効なのか。そうしたことを知りたいと思っていました。
その後、結婚して夫の母国であるフランスに移り住みました。いくつかの会社を経て、異文化マネジメント研修を専門とする会社に転職しました。そこで、ビジネス社会における異文化マネジメントの基礎を学び、INSEADのケーススタディの教材を共同執筆したことをきっかけに、本格的に教育者、研究者としての道を歩むことになりました。
文化の相対的差異を知ればギャップを埋められる
鴨居 私自身、過去に多様な文化的バックグラウンドを持つ人たちと一緒に仕事をしてきましたが、いま振り返ってみるといろいろなことがありました。もう30年近く前のことですが、私が勤めていた日系企業が欧州拠点としてオランダに新会社を設立することになりました。
そのオランダ法人のマネージャーとして赴任したのですが、オランダだけでなく英国、イタリア、スウェーデン、インドネシアなど7カ国から20人ほどの社員が集まっていました。新設した会社ですから、コミュニケーションの土壌となる企業文化というものがなく、当初は社員それぞれが持つ価値観の違いに驚きました。欧州といっても国によってこれほど違うものかと認識を新たにしました。