認識している世界は、私たちの心がつくり出したもの

「唯識思想では、この阿頼耶識に蓄えられた過去の経験が、末那識や六識の基礎となり、現在の自己や世界の認識に影響を与えると考えられています。つまり、私たちは過去の経験に基づいて心の中でつくり上げたイメージを、事実の世界だと思い込んでいるのです。しかし、それは自分の欲望、煩悩によって色付けられた虚構の世界にすぎません。『唯識』とは、その偏った思い込みから離れ、自己の心の在り方を変革し、ありのままの真実の世界に気付くべきである、という思想なのです」

阿頼耶識がつくり出す
世界から離脱する

 なぜ、阿頼耶識がつくり出した世界から離脱しなければならないのか。なぜなら、無批判に日常生活を送ることは、自分の心がつくった虚構の世界、いわば煩悩のバリアーの中で生きることになるからだ。バリアーは人生経験が増えるほど厚くなり、「~のはずだ」「~であるべきだ」という思い込みが強くなる。それは真実の世界とは相いれないものだ。だから自分の思い通りにならなくて苦しんだり、自分の考えを他人に押し付けて悩ませたりすることになる。

「阿頼耶識には、あらゆる経験が意識によって“言語化”され種子(しゅうじ)として保存されます。この種子が私たちの認識に影響を及ぼしているのです。では、そのサイクルから離脱するためには何をすべきか。まず仏陀の教えに耳を傾けることです。例えば、“悪いことはせず、善いことを行い、自分の心を清める”。次に教えを実践することです。それは容易ではありませんが、実践に努めれば次第に煩悩を離れ、真理を認識する力が現れる。この認識力を“智慧(ちえ)”といいます」

 修行者は、仏陀の教え(唯識の教え)に耳を傾け、ヨーガ(坐禅)によって自分の心を観察し、智慧を得て真理を悟るという。では私たち一般人はどうすれば良いのか。

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