「何かにとらわれた思い込みから離脱し、平等で自由な心を持つためには、日常とは違う経験や、言葉から離れる体験が有効になります。大げさなことではなく、例えば、普段より丁寧に料理や掃除をしてみたり、自然と向かい合う時間をつくったり、言葉の通じない国や地域を旅したり、美しい風景や芸術に感動したり。そのようなとき私たちの心は、過去の経験に色付けられた認識(煩悩のバリアー)から解放され、真実の世界にいるのではないでしょうか」
善い行いを繰り返して、阿頼耶識が清らかになれば、心がつくり出す世界もまた清らかなものになる。それで過去の悪い行いが消えるわけではない。だが阿頼耶識の中で善の種子が増えれば、悪の種子は相対的に減り、心がつくり出す世界もおのずとクリアなものになる。そのとき、私たちの前には悩みや苦しみのない人生が開けているのだ。
仏陀の思想を論理的に
説明する「唯識」
玄奘三蔵と彼が探究した仏教の教え「唯識」を研究する吉村教授。著作も多数ある
中国・唐の時代の僧であった玄奘三蔵は、「唯識」の教理を追い求めてインドへ旅立った。旅の期間は実に17年半にも及び、波瀾万丈のシルクロードの旅は、後に『西遊記』というフィクションに昇華された。
「玄奘三蔵と『西遊記』の結び付きは面白いテーマなので、ゼミでは学生たちと一緒に、『西遊記』の原作ともいわれる、玄奘三蔵の伝記『慈恩伝』を読んでいます。唯識の思想は玄奘三蔵によって中国にもたらされ、その学系は日本の法相宗(奈良の薬師寺や興福寺など)で継承されています。唯識は仏陀の思想を論理的、構造的に説明しているので現代の知識人に向いています。興味のある方はぜひ学んでほしい」と吉村教授。
そもそも仏教とは、人の悩みや苦しみに応えるためのもの。「唯識」という思想を理解することは、苦悩や生きづらさから離脱する一歩になるはずだ。
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