原因は想定外のニッケル減産
迫られる上野社長の決断力
住友商事が用意した23年度決算資料には、前年度の決算資料にはなかったページが盛り込んである。
「2023年度第4四半期決算において一過性損失を計上した主な案件」というタイトルで、100億円以上の一過性損失を計上した4案件が記載されている。
4案件で最も損失額が多いのが、資源・化学品セグメントのマダガスカルニッケル事業で、890億円の減損損失を計上した。
同ニッケル事業は単独で、資源・化学品セグメントの当期利益524億円を帳消しにして有り余る損失を出したことになる。これについて上野社長は「プラント設備の不具合」や「操業状況を踏まえて生産量の見通しを下方修正した」と説明した。
具体的には、昨年12月末、硫化水素プラントにおいて不具合が発生して硫化水素生産量が半減。これに伴い、ニッケルの年間生産は計画していた4万トンから3.5万トンに落ち込む見通しとなったという。
問題となった事業は、14年から商業生産を開始したニッケル生産事業「アンバトビー・プロジェクト」である。希少なニッケルの採掘、精錬において世界最大規模をうたっている。
しかし商業生産開始後、持分法投資損益が単年度黒字を達成したのは、資源価格が高騰した21年度のみ。これまでの赤字は累積4000億円以上に上る。
住友商事の22年度決算会見の質疑応答で、こんなやりとりがあった。「アンバトビーについて、23年度は生産量の改善により(中略)200億円改善する想定だが、確度はどの程度か」との質問に対して、住友商事は、「これまでの大規模修繕やメンテナンス体制強化などの効果もあり、生産能力の底上げができているという実感があり。2023年度は4万トン強の生産量を見込んでいる。25年度に向けては、生産量を4万トン後半まで拡大する見込みだ」と答えていた。
ニッケルの年間生産が3.5万トンに落ち込む見通しになったことを踏まえれば、昨年の決算会見時の見込みは、甘かったと言わざるを得ない。
今年の決算会見で、アンバトビーの撤退を検討しているか問われた上野社長は「まずは通常の生産体制に戻すことが最優先事項だ」と強調した上で、「ニッケルは経済安全保障にもつながるマテリアル。マダガスカルの国を支える事業でもある。経済・社会的な責任を踏まえてあらゆる選択肢を考える」とし、継続か撤退かは明言を避けた。
ただ、その後の証券アナリスト向け説明会では「(前中期経営計画を)開始したタイミングでは(アンバトビーが)堅調に推移しており、さらなる減損を見込んでいなかった。しかし、ニッケル価格の低迷や設備の不具合が生じる中で、全額減損する残念な結果となった」と、手痛い事業となったことを認めている。
マダガスカルにおける雇用創出や、日本の経済安保の観点で、アンバトビーの社会的責任は大きい。しかし、経営の面からすれば、再三にわたって赤字を垂れ流す問題事業でしかない。
事実、住友商事関係者は「アンバトビーは、これまで投資してきた数千億円を溶かし続けてきた歴史的な泥沼案件だ」と苦言を呈す。10年にわたって収支改善の努力をしても黒字化していない事業が、今後、劇的に改善することは考えにくい。上野社長は遅かれ早かれ、義理と利益の選択を迫られるだろう。
同社は決算と併せて、26年度までの新中期経営計画を発表した。同計画では26年度の純利益6500億円という目標を掲げている。泥沼案件を放置していては、目標達成はおぼつかない。上野社長の「決断力」が問われる局面といえる。



