EV(電気自動車)や再生可能エネルギーの普及で需要の急拡大が見込まれる銅で、総額約44億ドル(6600億円)の大型鉱山拡張プロジェクトがチリで動き出す。銅市況は4月8日に9400ドル台と2023年1月以来の高値を付けた。非鉄商社の顔も持つ丸紅がチリに投じるリスクマネーは約800億円。同社がこの2年で投じた成長投資7400億円の約1割に過ぎないが、日本の消費量の1割に相当する高品位の銅が日本にもたらされる。なぜこの規模の投資で巨大な資源開発が可能になるのか。総合商社の序列で5位の丸紅が、銅の持ち分総量で、日本最大の三菱商事に迫る取り組みを探った。(ダイヤモンド編集部 金山隆一)
大手商社を苦しめたチリの銅鉱山
丸紅も巨額減損を乗り越え挑戦
大手商社にとって、銅鉱山の開発には手痛い経験がある。大手5商社は中国の需要急減による商品市況の急落により、2016年3月期の連結決算で、5社合計1兆2000億円もの巨額減損を計上した。中でも三菱商事と三井物産は、チリの銅鉱山の減損で両社初の連結最終赤字に追い込まれた。丸紅は赤字こそ逃れたものの、やはりチリの銅鉱山で359億円の減損が発生。オーストラリアの鉄鉱石の減損なども加わり、連結利益は当初計画の1800億円から623億円に後退した。
丸紅は銅市況が1トン当たり8000ドル台半ばだった08年4月に2000億円を投じ、チリのエスペランサ銅鉱山の権益30%を取得し、過去最大規模の資源開発投資に乗り出した。銅市況はその後、同年9月のリーマンショックで3000ドル付近まで急落したが、フル操業に入った12年には再び8000ドル台半ばまで回復。16年には中国経済の減速で再び4000ドル台に急落するなど乱高下を繰り返し、丸紅は2度の減損に追い込まれた。
この時の経験から、「身の丈に合わない資源の大型投資をどう抑制するか」が、國分文也社長(当時)の胸に強く刻まれ、その後、柿木真澄社長に引き継がれた。実は、丸紅を翻弄(ほんろう)したこのエスペランサ銅鉱山こそ、隣接する鉱山と統合して名前を「センチネラ鉱山」に変え、今回拡張に乗り出すプロジェクトなのだ。
英資源メジャーのアントファガスタが70%、丸紅が30%の権益を持つセンチネラ銅鉱山拡張の総事業費は約44億ドル(6600億円)。日本の年間の銅消費量100万トン(精錬能力は150万トン)の約1割に相当する年14万トンを増産する。
丸紅は米穀物メジャーのガビロンやオーストラリアの鉄鉱石、チリの銅、米英の石油・ガスなど大型投資で5000億円を超える減損を計上した反省から、市況の変動で業績が大きくブレる大型資源開発の投資を抑制する経営方針に転換し、小粒でも安定した非資源分野への投資にかじを切ってきた。それにもかかわらず、なぜ44億ドルもの巨大な資源開発に乗り出したのか。
それは「脱炭素時代の石油」と成長が期待される銅の開発で、投資額を抑えられるプロジェクトファイナンスで開発資金を集められたからだ。丸紅は負担するリスクエクスポージャー(投融資と保証の合計額)を約800億円まで絞り込んだ。投資金額を低く抑えられたのはなぜか。次ページで探っていく。