売り上げ成長と「粗利低下」で分かる
新製品「ブラックウェル」の本格出荷

 22年10月にオープンAIがChat GPTを公表して以来わずか2年で、エヌビディアは半導体業界で最大の売り上げ規模となり、時価総額で世界一になった。

 11月20日に発表した24年8~10月期決算は、四半期の売上高が350億ドル(約5.4兆円)を超えた。前年同期比93.6%増というハイペースで成長を続けている。

 時価総額は3兆6000億ドル(約554兆円)と、2位米アップルを1000億ドル以上も突き放している。株式市場の過剰な期待を背景に決算後の株価の反応は鈍いが、売り上げ成長がこれからも続くことに疑いはない。

 株式市場で懸念されている要因の一つが粗利率の鈍化だ。24年2~4月期に、エヌビディアの粗利率は78.4%に達したが、そこからピークアウトして2四半期連続で下落して次の四半期もさらに落ちる見通しだ。

 現行の主力GPUである「H100」は生成AI業界で争奪戦が発生して品不足を起こした人気機種で、高い価格を維持して好採算を続けてきた。

 これに対して量産初期製品のブラックウェルの採算は低いことが分かってきた。実際に、ブラックウェルに設計上の不具合が生じたことで、10月までに「マスク変更」と呼ばれる作業を行い、歩留まりが一時低下したことが明らかになっている。

 ブラックウェルの立ち上がりとともにH100の全体に占める構成比が落ちることで、25年初頭の粗利率はさらに低下する見通しだ。

 もっとも、ブラックウェルは数百の製造工程を要する複雑な半導体製品だ。新製品は切り替えのタイミングで多少の不具合があるのは当然で、ブラックウェルの遅れも一般的な製品の切り替えによる影響の範囲内とみられている。

 楽天証券経済研究所の今中能夫氏は「ブラックウェルのような高性能半導体で何の問題もなく初期出荷が完了することはあり得ない。粗利率の低下も急激ではないので、通常の製品切り替え以上の大きな問題が起きているとは考えられない。むしろ70%台前半の粗利率は製造業として十分に高く堅調な水準にある」と指摘する。

 エヌビディアが発表しているブラックウェルの出荷時期は24年11月~25年1月だ。この3カ月で数十億ドル規模を売り上げる計画で、現在、フル生産を続けている。

 さらにエヌビディアは25年にブラックウェルの出荷を本格化させる。主力とするGPU製品がH100からブラックウェルに切り替われば、どんな世界が待っているのか。

新製品開発サイクルを1年に短縮!
GPU需要に応じる「性能向上」の論理

 ブラックウェルとはGPUの名前を指すだけでなく、システム全体を指す総称でもある。生成AIの学習や推論に使う主力のチップは、二つのGPUと一つのCPUを搭載する「GB200」で、複数のGB200を接続システムで統合したサーバーとして販売される。

 このサーバーの拡張版として72個のGPUと36個のCPUを一つの水冷ラックに搭載したシステムが「GB200 NVL72」だ。見掛け上は一つの大型コンピューターだが、「これが1つの大きなGPUとして動作する」(フアン氏)という意味で、チップからシステム全体に至るまで1つのブラックウェルという呼び名で統一している。

 市場関係者によるとH100の価格は1個2万5000~4万ドル(385万~616万円)程度。これに対して、ブラックウェルのGPUは4万~5万ドル(616万~770万円)程度に引き上がるとみられている。GB200のパッケージになると価格は10万ドル(154万円)を超える。水冷ラックとして売り出されるGB200 NVL72は300万ドル(4.6億円)程度とされる高額なスーパーコンピューターで、これが飛ぶように売れることが想定されている。

 フアン氏は「ブラックウェルの需要は信じられないほどだ」と述べている。その一方で、エヌビディアのGPUの価格が高過ぎるという批判も根強くある。

 だが、フアン氏は強気な姿勢を崩していない。11月13日の記者会見では「エヌビディアのGPUはコストの面でベストだ」と言い放った。

 その根拠はこうだ。「例えばAIデータセンターを建てるとき、エヌビディアのGPUへの投資額が10億ドルで、他社の製品が5億ドルだったとしても、エヌビディアのGPUなら学習に要する時間は短く、推論の結果も高い価値を生み出す。安いチップを使うより、エヌビディアのGPUの方がコストでもパフォーマンスでも優れているから需要が高いのだ」――。

 実際に、生成AI業界におけるLLM 開発においては、AIの学習の面でも推論の面でも、膨大な計算資源の需要が生まれている。その対応策としてフアン氏が強調しているのが、GPUの性能向上というわけだ。

 すでにエヌビディアでは、「1年サイクルでパフォーマンスを高速にしてコスト削減を推進する」(フアン氏)計画が進行中だ。

 25年には、ブラックウェルの出荷を本格化させると同時に翌年の量産を見据えた次世代品を発表する予定。さらに、26年と27年にも1年ごとに新型GPUを発表する計画まで公表済みである。

 年に1度ペースでチップの処理能力を高めていかなければ、生成AI業界の爆発的なGPUの需要の拡大に応じることができないとの判断だ。

 こうしたブラックウェルの性能向上のスピードに、競合企業は追い付くことができていない。これもエヌビディアの快進撃が強まる根拠である。

米巨大テックは巨額投資にアクセル
供給リスク高める米トランプ政権

 さらに、エヌビディアの大口顧客である米巨大テクノロジー企業(ビッグテック)は、生成AI開発を加速するためAI関連の設備投資を増やす方針を相次いで表明している。

 米アマゾン、米マイクロソフト、グーグルの持ち株会社である米アルファベット、米メタ・プラットフォームズの4社は、AIサーバーやデータセンター分野向けの設備投資を過去最高水準まで激増させている。

 アマゾンは24年7~9月期の設備投資額は226億ドル(約3兆4800円)で前年同期より81.2%の増加だ。24年12月期は約750億ドル(約11兆5500億円)を計画しており、アンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は「一生に一度しかないようなチャンスだ」と巨額投資にまい進することを鮮明にしている。

 アルファベットの7~9月期の設備投資額は前年同期比62.1%増の131億ドル(約2兆円)。スンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)も「AIへの投資は実を結んでいる」と強気そのものだ。

 米ビッグテックの生成AI開発への投資意欲は明らかに強い。だが、その一方で、エヌビディアに突き付けられる問題は供給力に移りつつある。

 エヌビディアのブラックウェルの生産は台湾積体電路製造(TSMC)に全量を委託している。この恩恵でTSMCは24年7~9月期の業績は売上高と純利益が共に過去最高を記録しており、ブラックウェルの生産に必要な「CoWoS(コワース)」と呼ばれる先進後工程の製造能力を増強中だ。

 それでもエヌビディアは「需要が供給を上回る」という状況は今後数カ月にわたって続くとの予想を示し続けている。

 GPUの増産が急がれる中、米国では25年1月からトランプ政権が発足する。中国との緊張が高まれば、エヌビディアにとってTSMCからの供給が危ぶまれるリスクは高まる。

 さらに自国産業保護のため輸入品に高い関税をかける方針を示しているトランプ氏が台湾で現地生産するTSMCから米国のビッグテックへの輸出に関税をかければエヌビディアにとって打撃だ。

 それだけではない。トランプ氏は「台湾は米国の半導体技術を盗んだ」と発言しており、バイデン政権が決定したTSMCの米国工場への支援を続ける姿勢があるのかどうかも不透明だ。

 生成AIの開発競争は一段と激化するのは間違いない。米国ビッグテックのAIデータセンターへの投資の意欲が強まる中で、性能に優れたエヌビディアのGPUの需要がさらに高まる条件はそろっている。だが、それを満たす供給面のリスクがトランプ新政権の発足とともに強まりつつある。

Key Visual by Noriyo Shinoda, Kanako Onda, Graphic:Daddy’s Home

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