半導体 投資列島#6Photo:Justin Sullivan/gettyimages

半導体活況の起爆剤となったのが「生成AI」ブームだ。中でも生成AIのサービス化や開発に欠かせない高性能「GPU(画像処理用演算プロセッサー)」を供給して急成長したのが、米半導体メーカーのエヌビディアだ。同社は2024年に売上高で米インテルを抜き業界トップに立つ可能性が高い。その躍進の背景には、GPUを大量購入する米巨大テック企業のほか、AI用GPUの製造に必須の技術を供給する日本企業の存在がある。特集『半導体 投資列島』(全9回)の#6では、日本と世界の製造装置メーカーをはじめとした、AI用半導体の生産に貢献する8企業を紹介する。(楽天証券経済研究所チーフアナリスト 今中能夫)

生成AIブームの長期化で
「AI用半導体」の需要が大爆発

「生成AI(人工知能)」のブームが「AI用半導体」の大需要をもたらしている。さらに、AI用半導体の生産に欠かせない製造装置にも需要が波及しており、高いシェアを持つ日本企業にチャンスが訪れている。

 生成AIの火付け役は2022年11月30日に公開された対話型の生成AIの「ChatGPT」だ。このような生成AIを実際に開発し、システムに組み上げて稼働させるには、データセンターにAIサーバーを並べる必要がある。生成AIブームで多くのユーザーが生成AIを使おうとするため、AIサーバーに装着されるAI用半導体は高性能品が数多く必要になる。

 生成AIのブームは、AI用半導体の大需要を創出する。では、今後の半導体市場の成長を大きく左右する生成AIのブームはいつまで続くのか。

 ChatGPTが公開されて1年がたったが、この間、ChatGPTの中身も進歩した。マイクロソフトは最新版の「GPT-4」を搭載した業務支援ソフト「Microsoft Copilot」を23年11月に発売し、法人ユーザーに提供している。アマゾン・ドット・コム、アルファベット、メタ・プラットフォームズも、自社のクラウドサービスの顧客向け、一般消費者向け、SNSの広告業者向けなどに生成AIをそろえている。

 24年は生成AIが企業の情報システムに組み込まれる年になると思われる。IDCは、27年に企業の生成AIに関する支出が世界で1430億ドル(約21兆円)に達すると予測している(下図参照)。この過程で、「ITとAIの長期ブーム」が到来する可能性がある。

エヌビディアがインテルを抜いて首位へ
マイクロソフト、グーグルはAI半導体を内製

 生成AIの大需要を獲得したのが、米半導体メーカー、エヌビディアだ。最新型のAI用GPU「H100」は、GAFAM(グーグル〈アルファベット〉、米アップル、フェイスブック〈メタ・プラットフォームズ〉、アマゾン、マイクロソフト)が争奪戦を繰り広げる人気の半導体だ。H100はエヌビディアが22年3月に発表し、同年秋に本格的に出荷を開始した。AIに必要な「学習」性能だけでなく、従来はCPU(中央演算処理装置)が行ってきた「推論」性能も大幅に高めたものである。

 需要が急増したH100は価格が飛び抜けて高額だ。日本のディーラーの参考価格は税込み643.5万円である。現在販売されている最高性能のAIサーバーには、このH100を最大10基も搭載しているものがある。加えて、米大手半導体メーカーのAMD、インテルのサーバー用高性能CPUを2基、計最大8テラバイトのメインメモリーを搭載したものを日本で購入すれば、価格は1台当たり8000万~9000万円以上になるとみられる。このような高額半導体と高額サーバーが大きな需要を獲得しているのである。

 エヌビディアが公表しているロードマップによれば、24年にH100の拡張版である「H200」とH200の上位機種、さらに次世代機種の「B100」の生産、出荷開始が予定されている。

 躍進が続くエヌビディアは24年、ファウンドリーの台湾TSMCを除く半導体メーカーの売上高としては、現在首位のインテルを抜いてトップに躍り出ると予想される。エヌビディアの23年8~10月期の売上高は181億ドル(約2兆6000億円)だった。これは、インテルの同年10~12月期の売上高154億ドル(約2兆3000億円)を上回った。時価総額でエヌビディアがインテルを抜いたのは20年だが、いよいよ売上高でもトップに立つ日が迫っている。

 エヌビディアに続いて、AMDは23年12月に新型AI用半導体「Instinct MI300」シリーズを発売した。インテルもディープラーニング専用チップ「Gaudi(ガウディ)」シリーズの最新版「Gaudi2」を24年前半に出荷開始するとみられる。

 クラウドサービス大手3社アマゾン(アマゾン ウェブ サービス〈AWS〉)、マイクロソフト(Microsoft Azure)、アルファベット(Google Cloud)も、おのおの独自のAI用半導体を自社開発して顧客に提供している。H100を搭載したAIサーバーが思うように入手できない中で、特に生成AIのスタートアップ企業がアマゾン、アルファベットの内製AI用半導体を使って生成AIの開発を継続しているもようだ。

 クラウドサービス会社も生成AIのスタートアップ企業も、AI用半導体の調達には困難が続いている。そのため、H100のみならず、AMDのMI300シリーズもクラウドサービスの内製AI用半導体も、需要が強い状態が当面続くと思われる。

 需要が急増しているAI用半導体の生産現場で活躍しているのが、日本製の半導体製造装置だ。H100のようなGPUの製造には高い技術力が必要であり、これに対応する製造装置を供給できる企業は、世界を見渡しても数が限られている。

次ページでは、AI用半導体に必要不可欠な製造装置を提供する日本の装置メーカー4社と、世界的な装置メーカーおよび半導体デバイスメーカーとファウンドリー4社の計8企業について、それぞれ強みとなるポイントと共に、今期と来期の予想営業増益率を、銘柄表にまとめて一挙紹介する。