米半導体大手エヌビディア製GPU(画像処理半導体)の争奪戦が激化している。その事態を重く見た日本政府が、エヌビディアと直接交渉に乗り出していたことが分かった。こうした政府の支援を受け、ソフトバンク、KDDI、さくらインターネットが、それぞれ1000億円規模のGPUの調達を進めていくことになった。3社を中心に、日本全体のGPUの購入額は総額4500億円規模になる見通しだ。特集『AI半導体 エヌビディアvsトヨタ 頂上決戦』の#8では、水面下で繰り広げられた激しいGPU争奪戦の実情をリポートする。(ダイヤモンド編集部 村井令二)
エヌビディア本社でGPU調達を直談判
経産省、ソフトバンク、さくらネットが同日訪問
「日本にもGPU(画像処理半導体)を用意してほしい」
2023年11月14日午前(現地時間)、米カリフォルニア州サンタクララにある半導体大手エヌビディア本社。経済産業省の野原諭・商務情報政策局長は、エヌビディアの上級副社長のジェイ・プリ氏と向き合っていた。
金指壽・情報産業課長と渡辺琢也・情報処理基盤産業室長が野原氏に同行していた。プリ氏は、エヌビディアで市場開拓戦略やセールスを担当し、エヌビディアにおけるGPUの世界配分を決める中枢幹部である。経産省の交渉チームは、日本企業のGPU調達についてエヌビディアと直接交渉をしていたのだ。
この日の午後には、ソフトバンクの宮川潤一社長と、さくらインターネットの田中邦裕社長もエヌビディア本社を訪問している。宮川社長は、エヌビディアの最高経営責任者(CEO)のジェンスン・フアンと面会。田中社長は、経産省に続いてプリ氏と会談し「24年に発売される最新GPUを買いたいので数量を確保してほしい」と具体的な要望に踏み込んだ。
はるばる日本から、政府と有力企業がこぞって訪問したことで、エヌビディア側も「日本の本気度」を感じ取ったようだ。12月4日に、フアン氏はプリ氏を伴って来日し、岸田文雄首相に向かって「日本にできる限り供給できるようにしていきたい」と伝えている。
結果、経産省は24年4月から5月にかけて、GPUを調達する企業に購入額の最大半額を支援する「クラウドプログラムの供給確保計画」の認定企業を相次ぎ発表した。中心は、ソフトバンク、KDDI、さくらネットの3社だ。それぞれの投資金額は1000億円規模に上り、エヌビディア製GPUを購入する計画を発表している。
これにより、日本全体のエヌビディア製GPUの投資計画の総額は4500億円超に上る。このうち経産省の補助金による支援額は1600億円以上になる見通しだ。
世界的にエヌビディア製GPUが欠乏する中、ソフトバンクをはじめとする日本企業は、GPUの巨額投資に乗り出した。水面下で何が起こっていたのか。次ページでは、政府主導の「エヌビディアGPU調達作戦」の全内幕をリポートする。