クラウドコンピューティング・サービスを提供するさくらインターネットが、北海道石狩市のデータセンターで、米半導体大手エヌビディア製のGPU(画像処理半導体)の巨額投資に乗り出した。企業の生成AI(人工知能)開発向けのクラウドサービスを強化するため、マイクロソフト、アマゾン ウェブ サービス(AWS)、グーグルといった米巨大テック企業とのGPU争奪戦に参戦するのだ。特集『AI半導体 エヌビディアvsトヨタ 頂上決戦』の#6では、さくらインターネットの田中邦裕社長が、その攻防戦の全内幕を明らかにした。(聞き手/ダイヤモンド編集部 村井令二)
政府と連携しエヌビディア製GPUに投資
顧客は「あるだけ欲しい」と注文殺到
――さくらインターネットは、米エヌビディア製のGPU(画像処理半導体)の大量調達に乗り出していますが、きっかけはあったのでしょうか。
われわれは2016年からAI(人工知能)開発向けのGPUのサービスを開始しました。歴代のエヌビディア製のGPUに投資してきたのですが、やはりエヌビディアのGPUは価格が高いのです。
最新のGPUはさらに高くなっていて、これではGPUビジネスを続けるのは厳しいと考えていたのですが、経済産業省から投資の半額を補助する話が出てきた。経産省も経済安全保障を担保する上で、日本企業がGPUを持つことが必要だと考えていることが分かりました。
われわれも民間企業としてやらなければいけないという使命感が出てきたし、日本でもGPUのクラウドサービスの顧客が絶対に増えると確信していたので、経産省の補助金があれば、自己資金と借り入れでビジネスができると考えた。大きな決断をしました。
――まずは23年6月に経産省の補助金プログラムに基づいて130億円の投資(うち補助金68億円)で、エヌビディア製のGPU「H100」を2000基導入する計画が決定しました。
投資が決定しても、GPUの争奪戦が激しく、実際に確保できるのかどうかは大きな問題でした。ただ、元々われわれはエヌビディアの日本法人と付き合いがあったし、経産省が自らエヌビディアと調達交渉に乗り出したこともあって、実際にGPUは23年12月から納入が始まったのです。これは(発注から半年で納入という)“むちゃくちゃ早い”スケジュールでした。結果、24年1月からGPUのクラウドサービスを開始できて、この夏に全量の整備を完了することができました(さくらインターネットは8月1日にGPU2000基の整備計画完了を発表)。
――1月から開始のエヌビディア製GPUのクラウドサービスに対して日本企業から注文は来ているのでしょうか。
大いにあります。2000基はすでに完売して在庫がない状態。生成AIの開発では、大規模言語モデル(LLM)だけではなく、画像や音声を処理できるマルチモーダルなAI作りが始まっているので、そうした企業のニーズがメインになっています。
国立情報学研究所(NII)が3分の1ほどを借りていきましたが(総額27.9億円で、H100を800基受注)、日本のメーカーやAIスタートアップがGPUを大量に必要としているので、出したらすぐに売れる状態です。あればあるだけ欲しいと言われています。すでにバックオーダーが積み上がっていますから、追加しなければいけないというほど需要が逼迫しています。
エヌビディア製GPUを巡り、さくらインターネットでは23年6月の130億円(うち補助金68億円)の投資決定に続き、24年4月には1000億円(同501億円)のGPU投資計画が決まった。わずか1年で投資規模は10倍近くに拡大。田中社長が「われわれの企業規模から考えると異次元」という巨額投資を決断した全経緯を激白した。