あらゆる環境を把握し制御する
Eco-PorkのPorkerは、豚舎で起こっているあらゆる現象を見える化し、生産管理の効率改善や最適な意思決定を支援するクラウドサービスだ。
技術開発はまず、農場の状態を数値で把握するための生産プロセスの定義から始まった。母豚であれば、種付けや分娩で個体ごとの結果を記録する。肥育豚であれば、死亡頭数や出荷頭数を群ごとに記録する。繁殖から肥育、出荷までの全プロセスを数値で見える化し、どこに課題があるかを判断できるようにした。
Porkerによってこれまで手書きで行っていた記録作業は、スマホやタブレットから直接入力できるようになり、業務の負担が軽減される。これらのデータはクラウド上で一元管理され、リアルタイムでの情報共有が可能になる。ベテランの経験に頼りがちだった業務も、分析機能の活用により誰でも的確に遂行できるようになる。正確な頭数管理は出荷計画の精度を向上させ、売り上げアップにつながる。さらに、Eco-PorkはPorker導入農家と連携し、アミノ酸バランス改善飼料を給与した肥育豚の頭数管理を通じたGHG排出量削減にも取り組んでいる。
すでにPorkerは、国内養豚業者の14%(母豚数換算)に導入され、年間220万頭についてのデータを蓄積している。
これまでの実績では、母豚数600頭の規模の養豚事業者で約8000万円、母豚数230頭の規模で1500万円ほどそれぞれ売上高が増加したケースが報告されている(実証結果による試算)。
新しい飼養様式を確立するためのDX豚舎
今回、農林水産省の「中小企業イノベーション創出推進事業(フェーズ3基金事業)」の補助を受けて行っているのが「AIトレーナーを搭載したDX豚舎を用いた肥育豚統合管理システム」の構築だ。24年から28年3月までの予定で実証実験に取り組んでいる。
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ポイントは、AIトレーナーが豚舎からの各種のデータやEco-Porkのクラウドに蓄積されている豚のデータなどを解析して自動的に判断し、情報を提供するところにある。スタッフは、それらを参考にして飼養方針を検討する。
いわばDX豚舎が「身体」ならば、新システムは「頭脳」を創造する試みだ。
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システム開発の責任者である荒深慎介取締役は、「フェーズ3基金事業によって愛知県田原市に自社農場を構え、200頭規模でスタッフはわずか2人という条件での実証実験を展開しています。100頭ずつ2組に分けて大群管理と個体管理を両立させるアルゴリズムを確立し、DXをベースにした新しい飼養様式のモデル像を明らかにしたいと考えています。25年1月には、この仕組みの下で肥育された最初の豚を出荷できました」と語る。
生産性改善、飼料効率改善、抗菌剤使用量削減について
管理体制の高度化・自動化が生産量の増加に貢献するという考えの下でシステムの構築は進められている。人による病原体の持ち込みリスクの減少は抗菌剤の使用量削減につながり、個体ごとに最適な量の飼料を与えることで飼料効率も向上する、と試算している。
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こうした実績からEco-Porkでは、「27年を目標年として17年と比べて豚肉生産量の50%増加、飼料効率の30%アップ、抗菌剤使用量の80%削減、GHGの25%削減の達成を目指している」(神林代表取締役)という。
真に持続的な未来の養豚への試みは大きなヤマ場を迎えている。