トランプ氏が第1次政権時代に貿易相手国に関税を発動した当時は、セメントが固まったように期待インフレ率は頑固に低水準に張り付いていた。消費者にはインフレの経験がほとんどなかったため、企業は関税に伴うコスト上昇を価格に転嫁することに慎重だった。

 ハマック総裁は、値上げすれば「どれだけのビジネスを失うことになるのか見当がつかない」というのが企業の当時の見方だったと述べた。

 米国は新型コロナウイルス禍が引き起こした数年にわたる高インフレと、超低金利と財政発動による景気下支えという政策対応を経てきた。このため、FRBは物価上昇に対してどこまで落ち着いていられるかどうかという疑問が生じている。セメントが固まっていなければ、今後インフレが上昇するとの予想が物価上昇を長引かせる可能性がある。

 企業の経営陣はコスト上昇を転嫁してきたため、現在は5年前には欠けていた、値上げという経験を持っていることになる。関税の打撃を受けない国内生産者でさえ、輸入価格の上昇を値上げの口実として利用することもありうる。

 米国全体で「これまでの経験から、物価上昇を受け入れる姿勢が強まっている」とハマック総裁は語る。

 スコット・ベッセント氏は27日、トランプ政権の財務長官として就任が承認された。承認に先立つ今月の公聴会では、関税が消費者物価を押し上げる可能性について、問題視しない姿勢を示した。ベッセント氏は、ドル高が進めば米国の輸入業者が直面するコスト上昇が一部相殺されたり、外国メーカーが値下げしたりするシナリオを語った。それでもある程度のコスト上乗せが残ったとしても、それを回避するために消費者が購買行動を変える可能性があるとした。

 FRBの見方によると、インフレの発生プロセスではインフレ期待が大きな役割を果たす。このことは、関税引き上げの実施方法がFRBの金利設定にとって重要になる可能性があることを意味している。

 カミン氏らFRBのエコノミストは2018年、関税引き上げの影響をモデル化し、二つの条件が満たされれば、FRBはインフレ率上昇を静観(つまり放置)できると結論付けた。その条件とは、家計と企業がインフレ率は低水準にとどまると予想していること、そして物価上昇が速やかに経済全体に波及することだ。

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