米国の長期金利の上昇傾向が続いている。FRB(米連邦準備制度理事会)による国債保有削減やトランプ政権による国債増発懸念による供給増が原因とされているが、実はそれ以外の要因もある。リスク資産選好の高まりによる国債の需要減も金利上昇をもたらす要因となっている。(SMBC日興証券 チーフ為替・外債ストラテジスト 野地 慎)
米20年債、30年債利回りは5%突破
10年債利回りの突破を予想する声も
2024年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では、9月時点で1.0%程度と見通されていた25年の利下げ幅が0.5%程度に引き下げられ、これをきっかけに米国10年債利回りが上昇基調を強める結果となっている。
ただ、後日公表されたFOMC議事要旨では、12月時点で、トランプ新政権によるさまざまな政策によってインフレの沈静化が阻まれる可能性が指摘されたことが明らかになった。
現時点では、インフレが高止まりするのか、あるいは9月時点で予想されていた通りに抑制されるのか、判断をしかねるところであるが、高止まりした場合は利下げを進めることが不可能になるため、利下げの見通しについても控えめなものにせざるを得なくなったと考えるべきであろう。
12月FOMCでは、26年末までには物価上昇率がFRB(米連邦準備制度理事会)の目標(前年比2%)に近い水準にまで低下し、その結果、政策金利が3.375%まで引き下げられることも示唆されたのだが、FRB自身にも迷いがあるようななか、市場もその不透明感を嫌気する格好で債券は売られ(金利は上昇し)続けている。
20年債や30年債の利回りが節目の5%に到達するなか、ベンチマークである10年債の利回りも4.8%台まで上昇し、5%の「さらに上の水準」を予想する向きも出始めた。
そのようななか、24年12月の米消費者物価指数が公表され、過去1~2年の懸案であった家賃の伸びが緩やかに鈍化していることが確認された。雇用統計においても、賃金の伸びが緩やかに鈍化していることが確認されており、家賃を除いた「スーパーコア物価」もまた12月に伸びを弱めている。
弱めの物価統計を受け、一時剥落していた25年内の利下げ期待も復活し、年内に政策金利であるFF(フェデラルファンド)金利が4.0%を割り込むとの見通しも支配的となったのだが、他方、米国10年債利回りは4.5%を大きく上回る状態を続けており、こちらはなかなか低下に向かわない。
それはなぜか。次ページでは金利が高止まり、上昇傾向を続ける要因について詳述する。