また、総工費1兆円規模の新幹線の大規模改修プロジェクトが31年度からスタートする予定であり、効率的な施工のために、工法、材料などの技術開発や施工環境整備を進めている。

 同社はJR東日本をはじめ、公民鉄各社などから難度の高い高付加価値工事を安定的に受注することで、業界でもトップクラスの利益率と健全な財務体質を維持している。伊勢社長は「国内の鉄道メンテナンスではすでにトップシェアを獲得していますが、今後は他のインフラ分野にも知見を広げたい」と展望を語る。

交通インフラを守り、未来を拓く。鉄道関連工事のリーディングカンパニー「『社会の当たり前』を支える確かなやりがいのある仕事です。変わらない使命のために変わり続ける企業でありたい」(伊勢社長)

協力会社と築く
三位一体の経営で品質を守る

 同社の強みは社内の技術力にとどまらない。現場で作業を行う協力会社との長年の強固な関係性が施工体制を支えている。伊勢社長は協力会社との関係をこう位置付ける。

「当社とグループ会社、協力会社の社員とその家族を幸せにする取り組みを『三位一体の経営』と呼んでいます。強固な絆づくりから生まれる信頼関係が、『東鉄工業ブランド』の施工品質を担保するのです」

 協力会社との関係では、同社からの請負を主要業務とする協力会社へのサポートを重視。受注の安定や施工の平準化に努めるとともに、後継者問題や金融交渉への助言、単価改善や一時金支給による待遇向上を進め、離職防止にも効果を上げている。

業界全体の未来を
支える人材育成

 鉄道工事の世界では、経験と技術力が命である。同社は人材育成を経営の根幹に据え、22年に「東鉄総合研修センター」を開設した。実習用線路を備え、実際の保線車両を動かして訓練できる設備を整えたことで、机上の学びと現場実習を融合させた教育が可能になった。

 入社後の新入社員は6カ月にわたり集中研修を受け、基礎を徹底的に習得する。配属後も段階的な研修が続き、年次やキャリアに応じてスキルを伸ばす仕組みが整っている。特徴的なのは、現場の第一線で活躍する所長や主任クラス約100人が兼任講師を務める点だ。

 実務経験に基づいた知識が若手に直接伝えられ、現場感覚を伴った教育が行われている。伊勢社長は「理論だけでなく実務力が必要だからこそ、人材育成は当社の発展に欠かせない」と強調する。さらに教育施設は協力会社にも開放され、グループ全体として施工の品質向上を図っている。これは単なる自社の人材育成にとどまらず、鉄道インフラを担う業界全体の未来を支える取り組みとなっている。

働きやすさを追求し
人的投資で成長を後押し

 同社は「長く安心して働ける職場づくり」に力を注いできた。働き方改革の一環として、業界内でも早くから4週8休の導入、フレックス勤務、テレワークの整備、時間単位の有給休暇など柔軟な制度を実現。さらに、連続休暇の取得推進や、入社時に20日の有休を付与する制度など、社員が休みを取りやすい環境を整えている。

 福利厚生も充実している。手厚い家賃補助や年48回分の帰省旅費の全額支給など、経済的支援は業界でもトップクラスだ。育児と仕事の両立を支援するために、配偶者出産休暇や保育料補助制度を整備し、男性社員の育休取得も進んでいる。女性幹部の登用も進み、すでに複数の女性部長が活躍。多様な人材が安心して働けるよう、キャリア形成とライフイベントの両立を支える体制が整っている。

交通インフラを守り、未来を拓く。鉄道関連工事のリーディングカンパニー女性活躍推進の取り組みにも注力し、「えるぼし」認定も取得。線路、土木、建築、環境の各分野で女性社員が活躍

 社員の成長意欲を引き出すため、社内公募制度や若手の早期抜てきを実施。高度な専門性を持つ人材を「シニアフェロー」「トッププロフェッショナル」として認定し、専門分野を究められる仕組みも導入した。定年は65歳に設定し、ベテラン社員にはその後も充実した雇用延長制度を設け、70歳を超えても働き続けられる環境を整備。世代を超えた知識継承と相互成長を可能にしている。

 こうした取り組みの成果は数値にも表れている。従業員満足度調査では業界平均を大きく上回り、12年連続でベースアップを実現している。伊勢社長は「社員とその家族が幸せであることが、結果的にお客さまの信頼につながる」と語る。同社はこの考えを基に、人的投資を経営の中心に据えている。