出店は肥沃な“南”に注力
既存店磨き込みが最優先

 建築費が上がっていますので、それなりのトップラインが見込める都心に近い場所については、積極的に狙っていきたいと考えています。当社では「南北政策」と呼んでいますが、主に埼玉県の国道16号線を境に北エリアと南エリアに分けて、出店戦略を考えています。

 北エリアはミドルシニア層が多く、南エリアは若いファミリー層が多い。南エリアは大企業にお勤めの現役世代が多いので、昨今の賃上げの恩恵を受けていると思います。北エリアは年金で暮らされている方も多いので、消費パワーでいうと南の方が強いと思います。従いまして、消費のパワーの強いエリアである南の方へ、もう少し店の割合を増やしていきたいと思っています。

ヤオコー川野社長かわの・すみと/1975年10月生まれ。98年3月東京大学経済学部卒業。2005年6月米ダートマス大学経営大学院卒業、MBA取得。98年4月日本長期信用銀行入社。01年3月新生銀行退職、同年4月ヤオコー入社。06年8月坂戸千代田店店長。09年1月グロッサリー部長、同年6月取締役。11年6月常務取締役。12年2月代表取締役副社長。13年4月代表取締役社長(現任)。17年4月エイヴイ代表取締役。21年2月フーコット代表取締役。25年10月ブルーゾーンホールディングス代表取締役社長(現任)。 Photo by Y.W.

――大手スーパーのバローは神奈川県へ出店しました。ここは現役ファミリー層が多く住むエリアだと思いますので、各社が考えていることはほぼ同じなのだと思います。競合すると思いますが、どう戦っていきますか。

 神奈川県の戸塚辺りは豊かなマーケットです。ただし、用地確保は非常に難しいエリアですね。

 基本的にはヤオコーは小商圏・高頻度来店型の店です。他社のように広域からお客さまを呼んでくるというより、店の近隣のお客さまをメインターゲットとしています。商品も食べ切り、使い切りのものを多くそろえていますし、総菜も充実させます。毎日来ていただくので、日ごとに生鮮品も変化させていきます。

 競合も生鮮ディスカウントがお客さまの支持を集めていますよね。例えばマミーマートホールディングスの生鮮市場TOP!やバロー、ロピアなど、支持が高い。私たちはそうした店に対抗できない限りは、スーパーとしてお客さまに選ばれません。だから生鮮強化をこの3カ年の中期経営計画でも掲げています。店の顔となる野菜の鮮度、安さを磨いていこうと考えています。また、私たちは総菜を強みにしています。味はもちろんですが、商品の変化でお客さまに飽きられないようにしていきます。

 生鮮ディスカウントは確かに手ごわいですが、私たちには生鮮食品の価格の魅力と、総菜の充実度、また適量サイズでそろえていますので、毎日来ていただける店になっています。生鮮食品分野と総菜の魅力を磨き込んでいくことが、私たちの戦い方です。

――磨き込むとは具体的には何をするのでしょうか。

 例えばミニトマトは、食べたときにパリッとおいしい状態なのかどうかにこだわります。時間がたつと、ミニトマトは少しグニャッとなってしまいます。パリッとしたトマトは本当においしい。そのために、陳列までのリードタイムをもっと短くできる工夫があるかどうか、生産者に近い“川上”までさかのぼって何かできないかを追求しています。

 お造りも一切れがどのようなサイズで、どのような切り方がおいしいかを見直しています。見た目の価値とおいしさは、切り方で全く変わってきます。お造りの価値をもう一段上げていくために、加工技術のトレーニングも必要です。

 こうした店舗運営における技術力を身に付けて、高めていくには、今働いていただいている方の定着率を高めていくことも重要になります。

――トップラインとともに、粗利を上げていく合わせ技が重要だということですが、粗利を上げていくには、仕入れコストを下げていくことが一つの施策だと思います。その点について、ブルーゾーンホールディングス(HD)を立ち上げ、6社のスーパーが傘下にありますが、スケールメリットをより得ていくことを目指しているのでしょうか。

 実は、スーパーで扱う商品の中に、スケールメリットが効くものはあまりありません。特に、生鮮食品はスケールメリットは得られません。唯一あるのは輸入品くらいで、バナナなどでしょう。むしろ規模が大きくなると、スケールデメリットが出てきます。

 例えば、規模が大きくなって、ある商品を全店で取り扱うには100トン必要だとします。ですが10トンしかない場合は、そろえられないためにデメリットとなり得ます。また仕入れた後の物流や在庫、受発注の方法などが整備されていないと、規模が大きい故にかえってコストアップになってしまったりします。むしろ今は、スケールデメリットをいかに最小にするかが重要だと考えています。

 もちろんプライベートブランド(PB)をグループで共通化すれば、メリットを得られるかもしれません。ただし、それもあくまで物流や在庫とセットで考えていきます。

――では粗利を上げていくには、やはりコストを圧縮する方が即効性があるのでしょうか。

 それもまた簡単なことではありませんが……(笑)。基本的にはそうです。セルフレジを導入したり、デジタルプライサー(デジタル式の価格表示機)を導入したりして作業を軽減し、その分、店内加工に注力して、価値に変えていく。そうすれば、カットしたコストが粗利に変わっていく。そのセットで考えていくべきでしょう。

――ディスカウントストアやドラッグストアなどが生鮮食品を扱うなど、競合は増えていると思います。脅威でしょうか。

 脅威といえば脅威です。生鮮食品を強化している業態には、私たちのメインのお客さまであるファミリー層の需要を取られてしまいます。逆に、生鮮食品の比率が少ない業態は、そこまで脅威には感じません。

売り場面積300坪で戦える
250坪の店も挑戦したい

――人口密度の高いエリア向けに、小型の業態を開発して進出する小売企業もあります。ヤオコーは、都市部向けの小型店舗についてどう考えていますか。

 一定以上の売り場面積がないと、私たちの店の魅力は出しにくいと考えています。やはり300坪は欲しい。これを250坪の広さでヤオコーの魅力を出せるかどうかは、挑戦はしてみたいと思っています。2層(複数フロア)で合計300~400坪であれば、それなりに戦えるものになるのではと思っています。立地と賃料、予測できる売上高次第でしょう。

――都市部での250~300坪の店は、ヤオコーとして出していきたいと考えているのでしょうか。

 東京都調布市に、八百幸成城店があります。この店舗は300坪弱の売り場面積です。都心から20キロ弱の立地で、あのサイズで戦えることは分かってきました。

 環七の周辺までは少しずつ入っていきたいですね。山手線の内側はまた次の話かと思いますが、それなりの売り場面積が取れれば、十分勝負できると思っています。

――成城店は17年11月に出店しており、すでに10年近く時間がたっています。同様のフォーマットでの出店加速は考えているのでしょうか。

 都市部では立地が限られています。いかに立地を押さえられるかに尽きる。常に探していますよ。ただ、なかなか良い物件情報が出てこない。

――立地さえあれば、出せる状態なのでしょうか。

 そうですね。良い立地さえ出てくれば、あのサイズの店を出していけると思っています。

――スーパー業界ではM&Aが活発になっています。ホールディングスを立ち上げたことから、ヤオコーもM&Aを積極的に進めるのではないかという見方もありますが、どのような考えでしょうか。

 成長戦略を考えたときに、立地が限られ、人口も減っていく中では、いかに仲間を増やしていくかは大事なことだと考えています。では、成長のために仲間を増やすことに注力するかというと、それよりも既存店の業績を良くすることが大事です。仲間を増やすときも、既存店に良い影響があるかどうかが大事です。

 各地には、地域に根差したスーパーがあります。一緒のグループになって、規模を拡大してスケールメリットを得るということではなく、お互いの良さを学び合って、磨いていく。それが一番大事だと思っています。

 ヤオコーも規模が大きくなってきましたので、どうしても新しいことをやるにも時間がかかったりします。小さな規模のスーパーの運営手法を見て、ヤオコーでも取り入れたり、ヤオコーの運営手法を取り入れてもらったり、そうしたノウハウを共有し、地域に貢献できるスーパーとして成長することが理想です。

――M&Aについては今後確実に活発になると思います。ブルーゾーンHDとして、積極的に買収していく考えなのでしょうか。他社が積極的にM&A戦略を進めるとなると、シェアを取られないように参戦せざるを得ない、という状況も考えられます。

 資本の力で買収して、店舗運営を全店で標準化していくと、利益は上がるとは思いますが、店としては面白くないかもしれないですよね。

 それぞれの店に特徴があって、地域の方がお買い物をされ、中にはその店で働いて、なんなら株主にもなってもらって、地域の生産者からも商品を供給してもらったりして、地域のインフラとなっていく。そんな地域の皆さんがいろいろな形で便益を得ていくような形を目指したいと思っています。

 そうしたブルーゾーンHDの考え方に賛同していただける方で、地域に根差した強みがある会社に、仲間に入っていただければありがたいなと思っています。

【訂正】記事初出時より、以下の通り修正します。
・1p目2段落目:パートナーさん(編集部注:パートやアルバイト)→パートナーさん(編集部注:パート)
・1p目7段落目:既存店(編集部注:出店から12カ月以上経った店舗)→既存店(編集部注:ヤオコーでは出店から3年目以降の店舗)
(2026年3月18日19:20 ダイヤモンド編集部)
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