本格的に進みだした経営改革
意識改革と併行して、現在最も力を入れているのが「マトリックス方式」の導入による経営体制の抜本的な改革だ。
本社主導による上意下達を基本としたこれまでの体制から、全国6支社に収支責任と権限を大胆に委譲する体制に大転換したのだ。
「縦軸のメインラインはあくまで支社や現場で、それを本社のスタッフが横軸で支える形にした。更に本社だけが把握していたデータも支社や現場に公開することで情報を共有できるようにし、500本の列車は全て6支社に分割された。これまでわからなかった列車別収支、駅別収支なども明らかになり、問題の所在が浮き彫りとなった。これにより、支社や現場では自分の管轄エリアに発着する列車は全て『俺たちの列車だ』という意識が高まり、営業やコスト削減など収支管理に強い責任感を持つようになってきた」(石田氏)
営業面においても、殿様商売と言われた古い体質から「お客様第一主義」への転換も大きな変化だ。
鉄道会社にとっての商品とは「輸送ダイヤ」であり、いかにマーケットの要請に合った“売れるダイヤ”を設定するかが基本となる。かつての同社は全国に万遍なく列車を走らせることを重視してきたが、需要の強い区間、時間帯に列車を重点的に設定していく方針に大きく舵を切った。
「大事なことはお客様のニーズにミートする商品(ダイヤ)をつくり、それを可能な限り早く実行すること。お客様のニーズをいち早く適確につかむために、営業部門を大幅に増強し、マーケティングセンターも新設した。従来の漫然とした全国ネットワークから、需要の高い輸送ルートの強化、臨時列車・専用列車の増強、土日曜の活用など、メリハリの効いたサービス網になってきた」
運賃の弾力化にも取り組んでいる。これまでは国鉄以来の硬直化した運賃(タリフ)を適用していたが、コンテナ積載率の低い区間や列車には割安なレートを提示するほか、数量に応じたボリュームディスカウントを適用するなど、柔軟な対応に切り替えた。
予約制度にも大胆なメスを入れた。「これまではお客様がコンテナの枠を予約しても1週間前にならないと確定できなかったが、これではお客様がしっかりとした輸送スケジュールを組めずに不安を感じてしまう。そこで1カ月前には予約を確定できるようにし、現在は安心してご利用頂いている」
3つ目の経営改革は、内部固めの組織改革だ。
まず、コーポレートガバナンス強化のために、取締役会・経営会議の規定を大きく見直し、3人目の社外取締役に初めて女性を招聘した。また、従来はなかったコンプライアンス室、コンプライアンス委員会などを立ち上げ、ガバナンスの強化とともに経営体制の基盤を固めた。さらに、調達部、設備投資委員会などを新設し、投資計画の整理・統合と調達コストの削減を目指すとともに、海外事業室を設立し、長年蓄積された貨物鉄道の技術輸出にも積極的に取組んでいる。また、これまで未統制だった組織を4本部制に整理・統合し、指揮・命令の迅速化が進められている。
「意識改革」「経営管理改革」「組織改革」――この3つが出揃い、同時並行的に進められ、JR貨物は今、大きく変ろうとしている。