JR貨物にもたらされた「経営改革」の本質
外部環境が大きく変わるなか、石田氏主導による経営改革も着々と進んでいる。同氏は、改革の必要性と、改革を成功させるための前提となる「意識改革」の重要性について次のように振り返る――。
しかし、これが変わらねば真の経営改革はできない」(石田氏)
「はじめは異文化の中で驚きの連続、というのが正直な感想だった。JR貨物は明治以来140年以上の鉄道の歴史を引き継いでおり、家族的な雰囲気や社員の真面目で優秀な資質など伝統の持つ良さがある一方、国有会社、独占企業ならではの弊害も指摘されていた。
鉄道事業を早急に黒字化し、経営自立化を達成することが我々の使命であるが、これを実現するためには、財務諸表から安全に至るまで、膨大な経営課題に取り組まねばならない。顕在化している問題はすぐにでも解決できるかもしれないが、変えることのできないのは社員一人ひとりの心の中だ。その集合である職場の集団規範や、企業文化を把握しなければ、真の経営改革はできないと強く思っていた。
そこで最初に取り組んだのが、経営幹部35人を集めての集中合宿だ。合宿の冒頭で私が言ったことは『上司も部下もなく、何を話してもいい。裸になってありのままの議論をしよう』という約束事だ。議論は繰り返すだけでは収拾がつかなくなるので、討議展開の道筋、まとめ方、各種手法を説明しただけで、4チームに分かれた議論の中身には一切口を出さなかった。
深夜にもわたる2日間の白熱した議論の結果、数十枚の模造紙に整理された我が社の問題点、将来の方向性、具体的な解決策、詳細なロードマップなど、一連のまとめは本当に素晴らしい出来だった。
しかし、それよりも大きな成果は議論のプロセスだったと思う。何となく感じていても口に出せないことは誰にでもある。しかし、思い切って本音で話してみた結果、実は皆が同じことを考えていたことが分かると、“気づき”が生まれ、確信となり、問題点を全員が共有すれば、自ずから変化への行動が起こる。変革はこういったところから生まれるものだ。
組織の中における個人は弱く、集団規範という目に見えない不文律に縛られていて、わかっていても動けないことが往々にしてある。そこを解き放つきっかけを作ることで、集団や組織は大きく変わっていく。合宿を終えたあと、全員がすっきりとした実にいい表情をしていた。この日以降、経営会議は大きく変った。
嬉しかったのは、この直後にこれまで弱体と言われていた本社営業部員全員が集まり、自主的に研修を繰り返し、何故自分たちが弱いのか、何をしなければならないかをまとめ上げたことだ。
さらに、幹部合宿に参加した6人の支社長が、今度は自分が講師となってそれぞれの支社で研修を開催し、その成果は全国大会にまで発展した。
最近では各支社や現場が同様の合宿を自主的に行うなど、意識改革の輪が野火のように広がっている」(石田氏)