モノが運べなくなる「物流危機」をどうするか?

EC市場、通販市場の急速な拡大、一方で、深刻な労働力不足という大きな課題。経済情勢の変化を受けて、物流はこれまであった「運ぶ」「保管する」という機能に加え、経済全体を効率化し、生産性を上げるための高度な戦略が求められるようになっている。今後、物流はどの方向に向かって進化していくのか。そのために、物流企業、そして荷主である企業はどのように物流を変えていくべきか? 国土交通省の物流審議官(6月21日付で海事局長に就任)である羽尾一郎氏に聞いた。(聞き手・『カーゴニュース』編集長 西村旦)

羽尾 一郎(はお・いちろう)1959年生まれ。大阪府出身。83年東大法卒、運輸省(現・国土交通省)入省。2008年航空局空港部空港政策課長、11年経済産業省大臣官房審議官、13年国交省大臣官房審議官、14年7月物流審議官などを経て16年6月より国土交通省海事局長。

熊本地震で
物流ができたこと、できなかったこと

西村 これまで、単にモノを運ぶ機能として「物流」は認識されていましたが、アマゾンなどの登場によって一般の人の生活、日常を支える不可欠なインフラであるという意識は高まっていると思います。特に、直近では熊本地震がありました。こうした災害が起きると生活を支える物流の重要性がクローズアップされますが、まず始めに、熊本地震での物流の対応、できたところ、できなかったところ、その点を振り返っていただけますか。

羽尾 災害時にはとにかくサプライチェーンを早く復活させて、緊急支援物資を現地に少しでも早く届けなくてはなりません。熊本地震では東日本大震災の教訓もあり、政府として初めてプッシュ型、つまり自治体や地元の方々からの物資オーダーを受ける前に、あらかじめ食料や飲料水、生活物資などを届けるという取り組みを行いました。

 具体的な例を1つ挙げると、物資の受入れ拠点について、大きな被害を受けている熊本市内や熊本市内周辺ではなく、いったん熊本県外に拠点を作り、そこを第一次の物資受け入れ場所としてまず運び込むことにしました。

 そのために、大手物流業者の方々には物資拠点の確保の協力を得ました。また、トラック協会とも連携して各工場、各倉庫から物資拠点に商品を送り込みました。そういった協力、連携をしながら、第一次拠点から熊本市内や熊本周辺市町村にある第二次拠点に送り、さらにそこから避難所あるいはまたその次の拠点に送る、といったオペレーションを行いました。今回、初めてプッシュ型の輸送を実施しましたが、初めてにしては円滑に進んだのは様々な事業者のご努力のおかげだったと思います。

西村 まだ避難所はありますし、進行形で動いているので時期尚早かもしれませんが、現時点で、今後の教訓となりそうな浮かび上がった課題はありますか。

羽尾 まずはやはり「情報の共有・把握」です。プッシュ型の輸送の体制は整っても、では「いつ何時にどこの工場から何が運ばれてくるんだ」といった情報。それから、一次拠点から二次拠点、そこから避難所、と物資が運ばれていく場合に、すでにどんな物資が運ばれているのか、避難所では何がどのくらい求められているのかといった物資の供給側と需要側のマッチングの情報。そうした情報の共有不足によって、適切な対応が十分に行えなかった部分もあります。

 もう一つは、あらかじめの「備え」の問題です。保管場所をあらかじめ把握、準備しておく必要があります。民間物資拠点の使える場所を把握しておくことはもちろんですが、県、市町村、自治体と民間事業者との連携体制を作ったり、民間事業者の施設やノウハウを使った方がうまくいくという意識を持ってもらうことも準備という意味では大事です。

 その他にも課題はありますが、これから検証していきたいと思います。

物流業界の「危機」

西村 災害時だけではなく、冒頭申し上げたように物流は社会や経済を支えるインフラとしての役割が大きくなっていますが、その分、表面化する問題も増えてきていると思います。物流業界が抱える課題をどのように認識していますか。

羽尾 まず、日本の人口減少、少子高齢化の進展が進んでいく中で物流業界の労働力の確保が非常に困難になっているというのが一番大きな課題です。

 物流業界自体、中高年の男性に依存した産業構造になっています。例えば、トラック事業について見ますと、トラックドライバーの約4割の方が50歳以上です。この方々が引退されたあとに、それに代わる人材を確保し、企業活動がきちんと回っていくように物流機能を維持しなければなりません。

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