モノが運べなくなる「物流危機」をどうするか?

羽尾 他方、電子商取引や通販の拡大があって、物流に対する産業界や消費者のニーズは高まるばかりです。物流の小口化、多頻度化はさらに進むでしょう。そのようなニーズの高度化によって、物流サービスを提供する側にとっては手間も人手もかかり、コストもかさんでいくと思います。しかし、それらのニーズにはきちっと応えていかないと社会インフラとしての責務は果たせない。労働力不足という問題を抱えながらそこをどうクリアしていくかは大きな課題です。

 また、これらの課題を解決する策としては、技術の向上や新技術の活用がありますが、これを物流業界としてどう取り組んでいくのか。IOT時代だと言われ、人工知能(AI)をどう活用するかなど、技術革新をどう取り込んでいくのかも課題です。

 さらに、目先の物流ニーズは高まっているとは言え、長期的にみれば国内は人口が減っていますから、物流業としての成長を維持するためには海外進出を果たさねばなりません。そこでは当然、欧米各国あるいはアジア諸国との競争に勝っていくということも重要になります。加えて、物流業は地球環境問題やエネルギー節約という課題を克服することが非常に重要ですし、災害に強い、あるいは安心できる物流を構築するという課題もあります。

西村 旦(にしむら・たん)カーゴニュース編集長。1969年生まれ。92年株式会社カーゴ・ジャパン入社。『カーゴニュース』編集部記者として、物流事業者、荷主企業、関係官庁などを幅広く担当。2011年代表取締役社長兼編集局長に就任。同年、幅広い交通分野での物流振興を目的として創設、優良な論文などを顕彰する「住田物流奨励賞」(第4回)を受賞。

西村 まさにその通りで、物流の「供給力」が落ちている中で多様化、複雑化している現状にどう対応すればいいのか。それは、物流業界だけが考えるべき課題ではなく、物流を活用して企業活動を行う、メーカーや卸、小売りなどの荷主企業も同じくらい危機感を持って対応を考えていく必要があると思います。

 これまで物流力を「湯水の如く」使えた荷主企業は、今後どう物流に向き合うべきだと考えますか。

羽尾 荷主企業と物流事業者の関係は大きく変化していくでしょう。一言で言うと、今までは荷主側の物流事業者との付き合い方というのは、荷主にとってそれぞれの物流事業者は数ある選択肢の中の一つ、という感じであったし、存在としてはコストの一部であり、企業経営の観点では、このコストをどう下げて自分たちの会計上の数字をよくしていくかという調整弁、あるいはコストセンターという見方が少なからずあったと思います。

 ところが先ほど申したような環境変化が起こってくると、物流は単なるコストセンターではなく、むしろ競争優位の源泉、つまり他社に勝ち抜くための重要な切り札になってくると考えられます。

 例えば、製造業なら、小口化や多様化する消費者ニーズに応えるために、今まで以上にどうやって部品や素材を運び、完成品をどのように送るか、を考え、それにふさわしい製造拠点はどこに設けるべきか、効率的な物流につながる配送頻度や入出荷時刻にマッチする生産体制をどう構築するか、といったふうに、「物流」を正面から見据えて、適正な企業戦略を構築するといった発想で考えることが重要になります。

 また、海外拠点を設置するときにも、単にモノを作るだけではなく、結局そこに繋がる輸送ルートをどうするか、保管をどこでやるか、消費者にどう届けるか、それにふさわしい部品調達や生産、販売の体制をどうつくりあげるか、などというふうに物流と生産から販売までの諸々のプロセスとを併せて総合的かつ戦略的に考えないといけない。

 さらに、交通利便の良い地点に設けた物流拠点に各地から効率的に素材を集め、そこで生産し、又は流通加工を施し、その上で各地に流していくといった形で物流がニーズを作って、ビジネスにつなげていくことも既に始まっています。コストの観点だけで考えていると荷主自身が競争に勝てなくなっています。物流が単なる「運び屋」ではなく、企業経営の競争優位の源泉に変わってきているのだと思います。

 その変化を象徴するように、昨年の10月には経団連から「これからの企業競争力強化と豊かな生活を支える物流のあり方」という提言を私どもに頂いており、そこで、自社単独で進める物流効率化がそろそろ限界に達しつつある、と述べられていました。企業にとって物流戦略は、直面している経営課題の一つであり、新たな視点でとらえるべき企業戦略要素となりつつあるのだと思います。

 一方、物流業界はこの変化を追い風として捉え、競争優位に寄与する物流機能をきちんと提供したり、あるいはサービスの高度化を果たすなど、業界として進化していく必要があるでしょう。

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