羽尾 物流業界にとっては、これまで自分たちをコストとしか見ていなかったであろう荷主と、新しい、フェアな関係を築く正念場であると思いますし、その分、物流業界自体も意識を変えていかなければならない。例えば、荷主の物流戦略を支える提案をする、あるいは荷主と連携する、また、業界同士で効率化を果たしていくなど、様々な課題に業界として一丸となって取り組んでいく必要がありますね。
西村 経団連からの提言があったということですが、物流を活用する側の荷主企業の意識の変化も強く感じますか?
羽尾 物流が経営戦略、あるいは競争優位に関わるもので、大事な経営課題だという認識は広がってきていると思います。ただ、そのやり方は一致した方向性があるわけではないですね。アウトソーシングを強化したり、それを系列化するというところもあるし、あるいは資本関係を外して付き合っていく、また逆に、全て内製化していく、といった具合に、様々な企業の考え方があります。
ただ、いずれの荷主にとっても、物流業界が直面する最大の課題である人手不足が、自社の生産品、製品、部品、素材の着実で安定した輸送の確保に直結し、それが自社の事業に打撃を与えるという危惧があるのは確かです。
一方で、きちんと供給される物流サービスを得るために、今まではひたすら「安く」だけに着目していて、ある意味で安く叩いていればよかったものがそうはいかなくなる。今後は、物流業者と荷主企業の関係が変わり、コスト高になっていくことへの懸念もあるようです。このため、安定した持続可能な関係づくりや効率化した高度な物流サービスの重要性にも関心が高まっていくことも考えられます。
物流事業者の「連携」を促す
西村 そうした物流業界の問題が顕在化するのと歩調を合わせるように、3年前に国交省の組織として物流審議官部門ができました。今、物流が抱える課題に対し、物流審議官部門というのはどのような役割を果たすのですか。
羽尾 国土交通省に物流審議官の部門を作ったのは2013年の7月です。もともと国交省の組織として鉄道、自動車、海事といった輸送モード別に分かれていましたが、物流審議官部門は、モードにとらわれずに広い観点で物流全体を見る組織として発足しました。
ですから、物流事業者、荷主企業はもちろん、消費者、自治体、全ての関わりを見ながら物流の関係者を調整します。また、もう一つは、霞が関の中の、経済産業省、農林水産省、関税当局、そして環境行政などとの調整もします。物流にかかわる共通課題、新しいニーズに応えるためにモードにとらわれず、できるだけ広い関係者の関わりを生む、あるいはそれをサポートする観点で行政を進めるのが役割です。
西村 そうした中で今年5月、物流総合効率化法の改正法案が国会で成立し、今秋にも施行されることになりましたが、これは物流業界の「連携」をキーワードにした画期的な内容になっていますね。
羽尾 そうです。人手不足・労働力不足に対応するために、物流業界の生産性を上げるための効率化支援の方策を定める法律へとスキームの転換をしました。これまでの支援対象は、大型で総合的な倉庫の整備を必須要件としていましたが、改正後はこれを要件から外し、支援対象を「施設整備」によるものから「連携」によるものへ転換し、二者以上の連携を前提に、モーダルシフトや共同配送など多様な取組みを後押しできるように法改正を行いました。
羽尾 例えば、物流の生産性向上という点で最も効果的なのは「モーダルシフト」で、これはトラック輸送を、鉄道あるいは船舶のような大量輸送に移行させることです。鉄道であれば一編成で10トントラック65台分をまとめて輸送できます。内航船であれば10トントラック150台分の輸送ができます。でも、鉄道で輸送すると言っても、一荷主のニーズだけで65台分の荷物がない場合もあるので、複数荷主のニーズを組みあわせる必要がありますから、ここで連携することになります。
複数の荷主が鉄道輸送を行なうJR貨物と連携しますし、さらに鉄道輸送の両端はトラック輸送との連携も必要になります。複数の事業者が全体最適を考えながら一緒に計画を作って取り組むものを支援対象にしていきましょうということです。
それから「配送の共同化」。例えば積載率4割同士のトラックが組んで二者で1台のトラックで運ぶといえば単純計算で積載率8割になりますから、そうした取り組みを二者共同で連携して行う場合に支援します。
今後は、地方の過疎地など、生産性が非常に低い物流を二者が組んで共同輸送することによって生産性を上げるという取り組みも重要になってきます。過疎地で複数の事業者が効率性の低い形で行っているがために、どの事業者の物流の維持も難しくなってきている、そういった配送については、一者に委託する形にすれば、効率が上がりますから。
さらに、倉庫の補完機能と輸送機能の連携なども支援していきます。これによって倉庫の周りでムダに待機しているトラックドライバーの負担を軽減することができます。